Archive for the '黄昏コラム' Category

RUSH HOUR!

進学を目的に上京した人たちは最初に住んだ土地がテリトリーになり、その後も同じ路線に継続して住むことが多いようだ。自分もそのパターンで中央線上を移動しながら高円寺に辿り着いた。

東京での移動手段はもっぱら電車である。中央線80%、山手線10%、他10%という利用率を誇る自分は中央線LOVERである。以前渋谷や下北沢に行く時に利用していた井の頭線も高円寺に越してきてからは使わなくなってしまった。井の頭線は雰囲気が好きで敢えて選んで乗っていたりした。
今は快速で2駅の新宿に出れば、そこからどこへでも行ける。
よく言われるように中央線はよく止まるし、数年前には高架化工事の弊害で「開かずの踏切」騒動もあった。中央線関連書籍も話題になった(のは沿線の書店だけか)。

中央線は特別快速、快速、各駅停車に分類される。高円寺に特別快速は止まらない。土日は快速も止まらない。週末我が家に来る友人の多くは「間違えて快速に乗って荻窪まで行っちゃった」経験があるようだ。土日は三鷹まで中央線と並行に走る黄色い総武線に乗らなければいけない。

あろうことか月曜の夜、新宿駅のホームに停車中だった中央特快に乗ってしまった。中野を発車してすぐアナウンスで気付いたがもう遅い。友人と喋っていたのでホームの電光掲示板を確認しなかったのだ。
次の三鷹までノンストップだ。我が愛しの高円寺をあっさりと通過し、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪、吉祥寺、三鷹・・・。郊外在住者には頼もしい中央特快だが、間違えると結構な時間をロスすることになる。初めての失態に我ながら呆れつつ、混雑した車内でポケっと時間を過ごすしかなかった。
三鷹駅に降り立って時計を見ると普段なら帰宅している時間だ。三鷹は嫌いではないが今は三鷹に用は無い。刹那的気分だ。急いで職場を後にした意味がまるでない。

中央線は東京駅から郊外のベッドタウンに向かって延びているため、上りの朝の通勤ラッシュは壮絶である。以前住んでいた国分寺から新宿までは中央特快で21分だった。しかしこれは昼間の話で、朝の中央線上は列車がダンゴ状態で連なるため実際はそれより随分時間がかかる。
朝の駅の光景は(一体どこからこんなに人が湧いてくるのか)と首を傾げるほどだった。その様子たるや人混みが人混みのまま移動しているようなものだ。わさわさ。
数分間隔で列車はやってくるのにホームに入る電車は充分に満員である。そんな状態にさらに乗り込まなければならない。パーソナルスペースとは無縁のその空間で、よくこれで電車が動くものだナ・・・(イテテテ)と感心してしまう。

通勤特快という国分寺から新宿までノンストップの電車がある。学生時代、新宿御苑のアルバイト先に通勤するためよく利用した。やはり早い。そしてご多分に漏れず、ひどく混む。
乗り込んだ瞬間の体勢でホールドされてしまうので乗車前は妙な緊張感がある。ミネラルウォーターを口に含み、カバンの口をしっかり閉める。さぁ!

一度片足を上げた状態で乗り込んでしまい、そのまま新宿まで片足が床につかなかったことがあった。しかしこんなのはわざわざ書くまでもないことだ。聞く話だと、中央線のラッシュはある人の高級傘の頑丈な柄を折り、ある人のろっ骨を折った。「TSUTAYAで借りた数巻のビデオですら武器」と友人が言ったのもまんざらオーバーな表現ではない。

高円寺に越してきても中央線のラッシュは相変わらずだが、乗車時間が短いせいで精神的負担は軽減した。新宿までわずか6分だ。ホームに到着したぎゅうぎゅうの車両に乗り込む時、(まだ乗るのかよ)的な目で皆が見ている気がする。
何を隠そう、自分は以前そう思っていた嫌なやつである。


本日の1曲
Transient happiness / DOPING PANDA


宙に消えた電気

今月も電気代が1万円を超えた。一人暮らしをしていても真冬と真夏に関してそれは驚く金額でもない。以前住んでいたアパートでは、ある時期の電気代が毎月2万を超えていた。

その金額を親に指摘されるまでまったく気が付かなかった。周りに聞くと「家族で住んでいても2万は高いよ」という人もいたが、部屋を見回してみれば家電製品も多い気がする。
昼夜逆転生活で常につけっぱなしのMacintoshと、運転し続けるエアーコンディショナー。ミュート状態のテレビとステレオの音楽。こんなものなのかなとなんとなく納得していた。

ある日の夜、突然ブレーカーが落ちた。
ソロソロと台所に行き配電盤を見上げると、配線部分がボォっとオレンジ色の光を放っている。よく見るとそこから細い煙が出ていた。これは多分、燃えている。
電力会社に電話を架けるとオペレーター氏は明らかに自分よりも動揺している。『け、煙ですか!』

電気がない、というのは想像以上に困った事態だった。真っ暗な部屋では思いのほか何も出来ない。言い換えればすることが何もない。青白い月明かりの元、ベッドに腰かけアイスティーを飲む。
真夏の夜の21時過ぎ。それまでの部屋の騒音が突然絶えた。

沈黙。
パチパチと音をたてる配電盤に目をやる。

ネコ氏をキャリーバックに押し込みアパートの外に出た。足元に置いたバックの中で彼は不服そうである。柵にもたれかかって通りを見下ろしながら車両の到着を待つ。
1時間ほどして電力氏が到着し、配電盤を交換してもらう。新しい配電盤は以前のものよりもひと回り小さく、明るくなった部屋にその跡がやけに目立った。

何に対して2万円を払い続けていたのだろう?


本日の1曲
Blue Light / Bloc Party


表参道ヒルズ


先週遂に表参道ヒルズがオープンした。大学生だった頃から同潤会青山アパート跡の建築計画は度々メディアに取り上げられていた。同潤会アパートのファンは多くその成り行きは自分も気になっていた。

同潤会アパートは戦前に建てられた国内初の鉄筋作りの集合住宅である。外壁をツタに覆われた重厚な様はまるで外国の古い建物のようだった。付近に華やかなブランドの路面店が並ぶ中、まさに時空を越えた存在としてそこに在った。
今日の夕方、思い立って表参道ヒルズに出かけた。

表参道からヒルズ内のショップに入店できるようになっているのは予想外だった。通りから気軽にアクセスできるのが自然に思えて好感を持った。
初めて六本木ヒルズを訪れた時は、そのつくりの複雑さに辟易した。広大な敷地面積がそうさせているのかもしれないけれど、行きたいショップになかなか辿り着けない!という事態に陥り、探索を諦めた経緯がある。
この表参道ヒルズの設計者、安藤忠雄は世界の名だたる建築家と同列で語られる存在である。期待が高まる。


地上3階、地下3階の吹き抜けが美しい。表参道のケヤキ並木の景観を損なわないよう、地下を掘削することで建物の高さを押さえている。壁と天井で空間を区切るという選択が最初からなかったかのような(これじゃなきゃだめだ)感がある。
館内はなだらかな斜面になっており、エスカレーターを使わずして全ての店舗を一巡できるようになっている。斜面の角度も表参道の傾斜と等しいそうだ。そして同潤会アパートの一部はヒルズに内包される形で残っており、周りの環境との調和が建物の重要なコンセプトであるのが伺える。

数カ月分の家賃に相当するJIMMY CHOOのバックの魅力に悩まされながら館内を歩いていると、いつの間にか地下3階に降りてきてしまった。再度エスカレーターで地上3階へ上がる。

建物の存在価値は人間を含んでこそ。そこに集まった人々は実にファッショナブルでその空間の完成に加担していた。街ごとに集まる人の種類が異なり、自分に適した場所を見つけることができるのは東京という都市の魅力のひとつだ。表参道には表参道的人間が集まる。

DOLCE & GABBANAの店内にはデニムの着こなしが僭越な若者がベンチに腰掛けている(彼はきっと会計を待っている)。上品な扉でそっと入り口を閉ざしているHARRY WINSTONは顧客と内緒話をしているようにも見える(入店できるのは予約客のみだ)。こんなラグジュアリーな空間では警備員ですらポケっとした顔をしていると浮きそうである。

現代の東京に、いかにもトーキョーらしいランドマークが誕生した。


本日の1曲
Why Not? / Fantastic Plastic Machine


クールなキッズには時間がない

浪人していた1年間は毎日デッサンを描き、絵の具にまみれていた。もう9年も前のことだ。
美大にも学科の試験がある。通っていた予備校では毎朝早くから「朝学科」と呼ばれる授業があった。大きな声では言えないが1年間の出席回数はおそらく10回にも満たない。そんな自分が通っていた武蔵野美術大学も今週あたり入試なのではないかと思う。

今でも付き合いの続く友人の多くとその予備校で出会った。着々と迫る受験を控えた同志である。その不安の状態が一層絆を深めたのではないか。
しかしそのプレッシャーは気付かないうちに自分を苦しめていた。秋頃には極度の貧血状態に陥り、よろよろと足元もおぼつかない有り様だった。

大学の特性上、周りの友人達とも同じ大学を受験することになる。
2月初頭、景気づけに受けたつもりの大学に不合格。その場にいた友人達と憂さ晴らしにバッティングセンターに繰り出したが、バッドは空を切るばかりで余計に憂さがたまった。
精神を立て直す暇もなくそれから怒濤の受験週間が始まった。画材を積んだカートをガラガラを引きながら全国各地からやってきた受験生と大群をなして試験会場に向かった。

親しい友人と、合格発表は別々に見に行こうと決めた。同じ大学を受験していても共に合格するとは限らない。大学近くへ向かうバスに乗るべく立川駅のバス停に並んでいると、向こうから当の友人が歩いてやってきた。苦笑しつつ一緒にバスに乗った。時間も、移動手段も同じとは。さすがいつもつるんでいるだけあるな、と妙に感心した。
大学構内の駐輪場に設けられた掲示板でお互いの合格を確認し、晴れて我々の進路は決定した。

立川駅の公衆電話で実家の祖母に電話をした後、国立へ向かった。
欲しかったプレイステーションを合格したら解禁しようと思っていたのだ。そしてあろうことか二人して本体と一緒に同じソフトを購入したのだった。貸し借りを考える冷静さはなかったようだ。

受験シーズンを迎えた朝の国分寺駅は毎年ガラガラとカートをひいた受験生達で溢れる。居酒屋で飲み明かし帰宅する途中にその光景に出くわして立ち止まったことがあった。
寝ていないぼやけた頭で彼らを眺めていたら、不安で仕方なかったあの頃を思い出して胸がいっぱいになった。


本日の1曲
1979 / Smashing Pumpkins


アンハッピー ニューイヤー

「はまったんじゃない・・・?」と助手席の彼女がおそるおそる口にする。
そう、きっとはまっている。認めたくないけれど。
運転席のドアを開けるとすぐ下に地面が見えた。振り返ると困惑した顔の彼女もちょっとだけ傾いている。車を降りて確認したら、右タイヤが道端の溝にすっぽりはまっていた。

ついさっきまで夜の海岸通りを気持ち良くドライブしていた。
すると何かの建物の門に突き当たった。なんだ行き止まりか、とUターンをした時ガクッと車体が傾いた。そのままアクセルを踏み続けたが、空回りするばかりで動く気配はない。

面倒なことになったなと思った。
原子力発電所の門の前で、溝にはまって傾いている親の車。そして状況を理解すればするほどダークな気分になってきた。2006年1月1日。遠回りをして帰ろうと無邪気な提案をした自分を呪った。

白い息を吐きながら門番のおじさんに状況を報告した。「何度もそこにはまったの見たけど、右側は珍しいナァ〜。」傾いた車に戻る途中(だったら溝に蓋をしてくれ)と思った。
そして携帯から104へ電話をしJAFの番号を問い合わせる。教えてもらったのは短縮ダイヤルだった。おおよその現在地と現場の状況を伝える。到着まで1時間半、費用は2万円くらいと説明された。幸いにもほとんど車通りもない。

左は鬱蒼とした山、右は黒々とした海。敷地の入り口は巨大な鉄扉に閉ざされ、その先には蛍光灯の明る過ぎる警備室。小さなテレビには呑気なバラエティー番組。背後で動き続ける原子炉。
誰が好き好んで真夜中にこんな場所に来るだろう?

JAFを待つ間に日付けが変わった。どうごまかしても確実に動揺している自分に「もう元旦じゃないから大丈夫!」と微妙に的を射ていない彼女のフォローがありがたい。

JAFの到着後、一緒にしゃがみこんで車体を確認したり運転席でアクセルを踏んだりして作業は20分程で完了。母親の車にもほぼ傷はついていないようだ。財布を握りしめ会計を待つ。「値引きして1万8千円にします」と言う。なんて頼もしい人なんだ。

次に年会費の支払い方法を確認された。年会費?
東京で車を持っていないので運転するのは専ら正月実家に帰ってきた時くらいだ。会員価格で1万8千円。さらに年会費を毎年4千円。聞くと会員に加入するかは任意のようだ。何の説明もなく加入前提で話が進んでいたのにも驚いたが、この状況である。有り金で解決できればそれでいいと思った。一刻も早く、ここから立ち去りたかったのだ。

すると彼女が止めに入った。「家族割引が利用できるなら親に加入してもらえばいいんじゃないの?」今度は的を射た意見だった。すると「家族割引は使えない」とさっきとは逆のことをJAF氏は言った。どうしても入会させたいらしい。
何分かの問答の末、その意志がないことを伝えると彼は明らかに不服そうな顔をした。「入っといた方がいいと思いますけどねぇ!」「今度依頼があっても来れないと思いますよ?」

その豹変ぶりに呆気に取られつつも「非会員価格で構わないから、入会はしない。」と告げた。彼は渋々それに応じ、作業代13600円を支払った。
13600円は最初に提示された会員価格よりも随分と安い。その計算式はよくわからなかったが、入会キャンペーンの胸のバッチが彼に圧力をかけているのは明らかだった。

せっせと撤収し走り去る車を見送った後、「最初はいい人だったのにネ」と彼女と苦笑しながら車を発進させた。


本日の1曲
What Ever Happened? / The Strokes


Online Banking

先月銀行に行った際、銀行名が変わっていてびっくりした。
そう、三菱東京UFJ。TVのニュースを見ない生活が祟っている。合併の話はなんとなく知っていたが信託とか証券の自分に関係のない分野の話だと思っていた。視界に入った看板を見上げて「うぇっ。」と声を上げた自分が情けない。

一人暮らしをしていると毎月家賃の振り込みという厄介なイベントがある。金銭と時間共に余裕が無い自分は月末になるとゾロゾロと新宿駅西口のATMの長い列に並んでいる。「はいー、次の方どーぞー」と警備のおじさんも忙しそうだ。
イソイソと振込を済ませATMを後にする。普段はコンビニATMを主に利用しているため通帳記入は滅多にしない。数日前に行った銀行でここぞとばかりに通帳記入。昨年夏からの印字にはすごく時間がかかり機械の前でぼんやり待つ。ジジジジ ジジジジ。新しい通帳に繰り越したはいいがそっちもほとんど埋まる始末。

そんな折に周りのお姉さん方が教えてくれたのが新生銀行だ。
インターネットで預金の管理ができて、聞くところによると振込手数料が月5回まで無料らしい。おお。それは早速申し込まなければ。

窓口に行くのが面倒だったので(まずは資料請求ネ)とMacintoshをカタカタといじって情報を眺めていたら、どうやら必要書類をダウンロードできるようだ。免許証をスキャンしプリントアウト、電力会社の振替領収証を同封。必要書類に記入。欄外に勝手に捨て印。封筒に両面テープ。ポストに投函。
約1週間後にカードが届いた。口座開設完了である。
ナイスだ。ナイス新生銀行!(こういうスピーディーさに滅法弱い)

しかし、口座を作ってから気が付いた。
月末になるまで振り込むお金がないことに。
結局また今月もATMに並ぶことになりそうである。まずは貯金か。


本日の1曲
Bored Of Everything / ELLEGARDEN


MTV Cribs

トリノオリンピックが開催されることをつい最近知った。しかもそろそろ開幕のはずだ。完全に話題に乗り遅れている。
昨年の夏にケーブルTVに加入してから民放番組を見なくなった。ちょうどその頃は衆議院解散選挙の真っ只中であったように思う。世間を賑わすニュースにも流行りのお笑い芸人にもトンと疎くなった。ニュースはWEBでヘッドラインを読む程度なので何がどうなっているのか実際のところはほとんどわかっていない。

前の部屋でも、その前の部屋でもケーブルTVに加入していた。今の部屋に越してきてすぐスカイパーフェクTVのチューナーを購入したがマンションの都合で断念せざるを得なかった。ケーブル会社も当初は導入不可能と言っていたのに、その後営業の人が来てあっさり工事は完了した。(1年半のブランクは何だったのだ!?)
今や録画のためのハードディスクレコーダーも購入し、視聴体制は万端である。

しかしながらMTVで「Beavis and Butt-head」や「The Osbournes」が終了してしまったのは嘆かわしい。そして他人の金持ちっぷりに驚愕した「Cribs」も終了してしまった。

Cribs」はいわゆる音楽成金・・・失礼、人気アーティストのお宅訪問番組である。
そしてご多分に漏れず彼等は豪邸を所有している。ベッドルームやバスルームの数も日常を逸脱している。番組の冒頭で紹介される間取りのデータでその数が1ケタだと、見ているこっちは(なんだ、狭いな。)と思ってしまう。要するに感覚が麻痺してくる。プール、テニスコート、ホームシアター、地下のスタジオにはマイ・スターバックス。

HIPHOP系アーティストは玄関の吹き抜けに巨大な自分の肖像画を掲げがちである。そして誇らしげに輝くゴールドディスク。螺旋階段と床の大理石。家の中のほとんどの事象は電気制御されているし、彼の歯には金でも銀でもなくダイヤモンドが埋め込まれている。

そして「クールだろ?」と言いながら紹介する部屋ごとに何故かセクシーなお姉さんがいる。彼の友達なのだろうか?仕込み?HIPHOPに詳しくない自分は、そもそもその誇らしげな彼自身がいったい誰なのかわからず、ますます怪しい。
そのえげつなさには、圧倒されつつも釘付けであった。


本日の1曲
Angel / Pharrell


独身リンゲン

少し前に「シングルリンゲン」というリングが話題になった。
シングルであるという意思表示のためのリングだ。マリッジリングが既婚者であることを意味するように、その青いリングは未婚者であることを意味する。

スウェーデンで生まれたシングルリンゲンは昨年日本に上陸した。ファッション誌でも度々取り上げられ、セレクトショップでも販売されている。
WEBサイトは各国言語に対応していてインターネットで注文すればエアメールで配達される。

既婚者全員がマリッジリングをしているわけではないし、女性に対して結婚しているのかを尋ねるのは勇気がいる。話の内容で判断するのも時間がかかるし、その気づかいのせいで折角の機会を逃している、と考えれば出会いを求めているシングル氏にとってはこの上ないアイテムだろう。

無事に相手を見つけた後は結婚式のブーケトスのようにシングルの友達にあげる・・・のがいいかどうかは別として、とかく悲観的色彩を帯びがちなシングルライフを割り切って楽しむことができる。と、ポジティブに考えてみようじゃないか。シンプルなデザインにも好感が持てるし、コンセプトもいいところをついている。

世界中で販売されているリングにはそれぞれシリアルナンバーが刻印されていて、Webサイトに登録すると同じナンバーのリングを持った相手とコンタクトが取れる。

Webが普及した今こそ世界中の人々とコンタクトが取れるアイテムは”実践的”だ。たった一人のその相手はこの世界のどこかにいる。

けれども肝心の相手が登録を怠って、いつまでたっても直接コンタクトが取れない可能性だってある。中にはそれを嘆く人もいるかもしれない。

たとえ世界のどこかにいる彼(彼女)のシングルリンゲンがベッドサイドテーブルに放り出されたままになっていたとしても、そうして誰かと繋がっていられるというのは素敵なことなんじゃないだろうか。
リングのことなどとっくに忘れて目先の週末のプランを考えるのに必死かもしれないし、提出期限の迫ったレポートを前に頭を抱えているかもしれない。

そんなことをぼんやり考えていたら小学校の時に手紙をつけて飛ばした風船を思い出して、少しセンチメンタルな気分になった。


本日の1曲
Have A Nice Day / Stereophonics


浅草ファンタズマ


昨深夜、母親から電話があり「東京に来ているから、明日一緒にお昼でも食べましょ」と誘われた。両親の誘いはいつも急だが、先の予定が決まっているのが不得手な自分の性格をよくわかっている。
浅草のホテルに宿泊中らしい。おそらく浅草寺にも行ったことがないので浅草で会うことにした。

雷門の前で両親と落ち合い、天ぷらを食らう。
そして浅草寺でおみくじを発見して飛びつく。おみくじについて全く無知なのでその「小吉」という結果がいいのかどうかもわからない。「吉だからいいのヨォ」という母親の言葉はフォローだったのだろうか。

釈然としないままお線香を買い、くすぶっているデカイ鉢のようなものに投げ込む。周りの皆は頭をペンペンと叩きながら煙を浴びまくっていた。なんとなく真似てみる。ペンペン。

そして歩いて両親の宿泊するホテルへ向かった。その辺りは数年前に行った大阪の新世界の雰囲気によく似ていた。
先端に「花やしき」と書いてある鉄塔のようなものがそびえ立っているのに気付いた。
これがかの有名な花やしきか!
入園に両親も乗り気だったが、時間がないのであえなく却下。
入場門から見えるメリーゴーランドはファンタジックで、真冬の空気に鮮やかに映えていた。


本日の1曲
ジュビリー / 中村一義


レンタル奔走記

返却期日が迫ってくると(観なきゃ・・観なきゃ・・・)と切羽詰まるあの感じ。
レンタルビデオがどうも苦手だ。店舗に返却に行くのも面倒くさい。観ていない作品をそのまま返却することもよくある。半額デイに借りた意味が無い。結局損している。
だから基本的にはすぐ観たい作品がある時だけレンタルする。過去に観て気に入った作品や、間違いないと睨んだ作品はDVDを購入することにしている。

昨年は海外ドラマの「SEX and the CITY」を観た。
ニューヨークを舞台に展開される4人の女性の物語。おしゃれでキャリアもあるのになぜか男運が悪い独身30代女性の日常。そのファッションやライフスタイルは話題をさらったし、雑誌でも頻繁に取り上げられた。

DVDは全部で20巻程。渋谷Q-FRONTのTSUTAYAには各巻25.6本くらいストックがあり同作品がびっしり並ぶさまは圧巻だったが、当時は人気絶頂でほぼ貸出中という有り様だった。
今は豪華BOXセットも発売されているがその当時はDVD1巻づつの販売で全巻揃えると6万を超えた。真剣に購入を考えたが敢えなく断念。芸能人の『「24」にハマって一気に全巻買っちゃったんですヨー』という話を聞く度に本気で嫉妬した。

面倒くさがりやの自分が夜な夜なDVDを求めて奔走していたのだ。どうしても昨日の続きを今日観たい!というパワーは我ながら驚くほどで、区をまたいでもレンタルビデオ店に足を運んだ。しかし折角行った店舗でも貸出中の為借りられないことが多かった。
きっと、眉間にしわを寄せてレジの後ろのストックを凝視する怪しい人だったと思う。借りたDVDを返却するのが惜しくて、吹き替えで、字幕で、と何回も同じエピソードを観た。
要するに見事に「ハマって」しまったのだ。

彼女たちはいつだって理想の男性との素敵な出会いを求めている。素敵なドレスに身を包みピンヒールでマンハッタンを闊歩する。
貪欲に。そして失敗する。男をトッカエヒッカエする。そして週末のランチでお互いの1週間の出来事を報告しあう。(主にののしりあう)

登場人物が若いガールズだったらここまでの支持は得られなかったはず。もはや恋愛において彼女達はオリジナルの哲学がある(これが恋愛の邪魔になることもあるのだけど)。
いくつもの恋愛を積み重ねてもうまくいかない。同じことでまた失敗する。失敗したら女友達にすがりつく。
(やっぱり友達って大切だよナ、うんうん)とこちらが頷き終わらないうちに次のオトコとベッドインしている。
彼女たちの奔放さと、未熟さのアンバランスが生み出す親近感。

普段いくら正当なことを語っていても、人に胸を張って言えないこともある。


本日の1曲
Tired of Sex / Weezer