Archive for the '黄昏コラム' Category

マウスジェスチャー


自宅では『あ。』『そういえば』と何かを思い出してはMacの前に座っている気がする。
段ボールの収集日や店舗の営業時間などちょっと確認したいことは日常的に訪れるし、知らない店の行列を見れば自宅に戻って(ドーナツ屋かぁ)と納得する。インターネットが普及する前まで、検索行為なしで生活が成り立っていたなんてちょっと信じられない。

今ではiGoogleが生活の一部になっている。iGoogleとは、GmailやGoogle AnalyticsなどGoogleが提供する各種サービスの管理画面でもあり、自分用に好きなガジェットを表示させることができる情報ページでもある。

ニュースのヘッドラインはもちろん、AmazonのトップセラーランキングやKizashiのワードランキングで今の話題を知ることができるし、本日のNASA画像で宇宙に思いを馳せることもできる。iGoogleは情報収集と暇潰しを兼ねたページなのだ。

仕事でもプライベートでもインターネットが欠かせない生活で、1日に何百のウェブページを閲覧している。そしてほとんどその度にウィンドウを開いたり閉じたりしている。ウインドウの端の「閉じるボタン」めがけてマウスポインタを移動したり、左手でショートカットを叩いたり。今まで普通にしていたアクションも、(手間なことしてたなぁ)と思ってしまう。マウスジェスチャーを使い始めた今となっては!


マウスジェスチャーとは、マウスの動きだけでアプリケーションに特定の指示を出すこと。ソフトをインストールすればブラウザなどにマウスの動きに応じた指示が出せる。

自宅のMacにSafariGesturesを導入したら、開いたり閉じたりの煩わしさから解放された。マウスジェスチャーが優れているのは、オリジナルのジェスチャーを登録できるところで、「戻る(←)」や「進む(→)」以外にも、よく使う動作を割り当てることができる。

例えば今までショートカットを使っていた「Safariを隠す」アクション(command+H)も、マウスを下にずらす(↓)だけで可能になるし、「新規タブを開く」はVの字(↓↑)のジェスチャーで可能。「タブを閉じる」時は右クリックを保持しながらL(↓→)を描けばいい。マウスの軌跡が表示されるのもわかりやすいし、きっちり描かなくても認識してくれるのも素晴らしい。

自宅と会社など、複数台のマシンを使う場合でも同じジェスチャーを設定しておけば戸惑うこともない。ジェスチャーに慣れるとSafari以外のアプリケーションでもマウスジェスチャーしたくなってくる。(間違えて空振りすることもしばしばある)

毎日ブラウザを使いまくる人にも、画面の小さいネットブックを使う人にもマウスジェスチャーはおすすめ。小さな閉じるボタンを狙い撃ちしなくても、左手をショートカットの形に準備する必要もないのだ!


本日の1曲
Move / CSS


【番外コラム】Google Analyticsの解析結果によると、の話。





■Internet Explorer / Windows 51.74%
■Safari / Macintosh 21.28%
■Firefox / Windows 17.41%





リヴィング・トーキョーを閲覧している方のユーザー環境の円グラフです。自分と同じ環境の方(Safari / Macintosh)は21.28%。
Macのシェアを考えれば、意外に多いと言えるかもしれませんね。


やはり一番多いのはWindows OSでInternet Explorerをご使用の方。(IEだとページ表示がうまくいっていないところがあるので・・・少し戸惑う)
IEユーザーの皆さん、IEには【
HandyGestures】というソフトがあるらしいです。


日光


2月14日(土)


東武日光線に乗るため朝10時に浅草で待ち合わせ。桃熊氏も静岡からやって来て、C氏と3人での久々の再会となった。
今年揃って本厄を迎える我々は、厄払いを口実に旅行をすることにしたのだ。

各駅停車の懐かしいボックスシートに向かい合って座り、のどかな風景を眺めながら約3時間で東武日光駅に到着。
そこから更にバスに乗ること約30分。『正月には走り屋が度胸試しに使うんだよ。』(C氏談)という、急勾配かつ曲がりくねった「いろは坂」になんとか耐えて、中禅寺温泉駅に到着した。

バス停の近くの「華厳の滝」で荘厳な景色を眺めていると野生の猿の姿があった。体毛が綿毛のようにふわふわしていて愛くるしい。ここは標高が高く麓と比べると随分気温も低い。夜はどうやって過ごしているんだろう。住居のような洞穴でもあるのだろうか?

日光は湯葉が名産らしく、土産物屋には生湯葉をはじめ、湯葉の加工品がたくさん並んでいた。ゆばカレーや、ゆばプリンなんていうのもある。まずは3人揃って「ゆばコロッケ」を食べてみた。塩を軽くふってかぶりつくと、湯葉の歯ごたえを確かに感じる逸品であった。もちろん、この日宿泊した湖畔の民宿でも湯葉の煮物や刺身が出された。湯葉好きには嬉しい。

夜は温泉に浸かる。硫黄泉独特のパーマ液みたいなにおいがする。露天風呂は冷たい外気が心地よかった。前日の睡眠不足が祟って、夜は至極アッサリと就寝。

2月15日(日)


東武日光駅まではバスで30分ほどかかる。一旦東武日光駅まで行きロッカーに荷物を預け再びバスに乗る。15分ほどで二荒山(ふたらさん)神社に到着。C氏の知人に運気が好転した人が何人もいる、ということで厄払いに選んだ神社なのだ。

昨日のように風もなく絶好の散策日和。まずは参拝を済ませ、厄払いの受付をする。
申込書に住所と名前とそれぞれの読み仮名を記入し願い事に二つまで丸をつけるが、二つ、というのは結構悩ましい。祈祷料の5,000円を支払って待合室で待つこと約15分。我々3人と一家族の祈祷が始まった。

頭を下げ、しゃんしゃんと鈴の音を聞く。お経のような口調で各人の住所と名前が読み上げられた。(だから読み仮名が必要だったのだ!)神様に住所を知らせてもらったことで守られている感が増幅した。

お札と厄除けの御守りを受け取って満たされた我々は、昼食を食べてから日光東照宮に向かった。国宝に指定されているいくつもの建立物には、細かな彫刻が施されている。立体的で過剰なほど詰め込まれたモチーフが目を飽きさせない。

東回廊には「眠り猫」がいた。話には聞いていたけれど、大きな像を想像していたからひっそりとしていて意外だった。我が家で留守番をしている高円寺の眠り猫、ハク氏を思う。そして「三猿像」のキャラクターがが思いの外、漫画調であることにも驚いた。

ところで、C氏は納経帳(のうきょうちょう・参拝の証として朱印を貰うための帳面)を持参していた。そんな神社通のC氏は昨日から『人から買って貰うのがいいみたいだから』と言っていて、こちらの知らぬ間に自分と桃熊氏に御守りを買って手渡してくれた。C氏の思い遣りが滲みる。これからC氏に会った時にはニ礼二拍手一礼をしなくては、と桃熊氏と笑いあう。

おみくじを引き(吉)、運試し輪投げをする。(全員入らず)
今年は三者三様に変化のある年になりそうな気がする。どうかそれぞれ、気負わず自分らしく過ごしていけます様に。


本日の1曲
つたえるよ / 100s


さくじょ。


この間友人と長話をしていた時、彼女は『年を重ねて自分の身を守る方法がわかるようになった』と笑った。悲しい出来事に心が動揺したとき、その動揺をこれ以上こじらせないために、どうするのが自分にとって最善か。

今、ドコモは『Answer』という広告キャンペーンを展開している。
昨年オンエアされたCM「STYLE登場」篇では若い女性の恋愛模様が描かれた。雨の中『答えがほしいの。』と男性に詰め寄り、のちに自分の部屋で携帯電話に登録されていた彼の写真を削除する、というストーリー。

このCMがオンエアされ出した頃、冒頭の彼女をはじめ、何人かの女友達が立て続けにこのシーンを話題にした。確かに、『さくじょ。』という呟きと、複雑な表情が印象に残るCMだった。

一見演出がかったこんなシーンも、恋をすれば日常に介入する。何人かの話を聞いていると、似たような経験をしている人が結構いた。時間を持て余し、なにかにすがりたい気持ちで彼のメールを見返せば、余計に寂しさが募ってしまう。

恋人と別れたある友人は、意を決して受信メールを一括削除した。
しかし空になったはずのメールボックスに「保護」していた彼からのメールが残ってしまったらしい。名前すら見たくない心境なのに彼の名前で画面が埋め尽くされてしまった。

彼女は結局、“鍵” のマークのついたメールを一つずつ開封して保護を解除し、削除しなくてはならなかったそうだ。大切なメールだから鍵をつけて何回も見返していたはずなのに、こんな時には全てが痛い。

クリアボタンを押しさえすれば消失するデータ。でも、今まで何度それに励まされてきただろう。一瞬で消えてなくなるものをどうしてこんなに愛しく思うんだろう。

彼の好きな曲を集めたプレイリストや、借りたままの本や、一緒に出掛けるはずだった約束とその行き先を、彼女は思う。あのほんの短いシーンには、誰の目にも触れない、ひとりきりの決意が描かれているのだ。


本日の1曲
開け放つ窓 ~piano version / 阿部芙蓉美
youtube
 

好きなCMを調べると前田氏がディレクションしていることが多い。
心の揺れを描くのが本当にうまい人なのだと思う。

■ Answer「STYLE登場」篇
http://www.nttdocomo.co.jp/corporate/ad/tvcm/081205_01.html
出演者   :堀北 真希 山崎 努 成海 璃子
ディレクター:前田 良輔

■ ソフトバンクモバイル「プロポーズ」篇
http://jp.youtube.com/watch?v=pli7bVWTpdo
■ 東京ガス「家族の絆・山菜の味」篇
http://www.tokyo-gas.co.jp/channel/200ch/flash/m2008_12_b.html


買い物日誌010 書きたい気持ち

 

デジタルメモ pomera
¥21,800
購入場所 ヨドバシカメラ 新宿西口本店



年末の帰省をきっかけにpomeraが欲しくなった。実家にはパソコンすらないから、時間を持て余す正月にブログの文章が作成できない。パソコンほど立派でなくてもいいけれど、携帯電話ではちょっと物足りない。

自分の中で購入を決めたのはよかった。でも人気商品でどこも品薄。予約を受け付けている店舗でも入荷は2月だったりする。オークションでも定価以上の高値がついているのだ。

一見すると小さなネットブックのように見えるけれどインターネットには接続できない。画面もモノクロでパソコンよりはワープロに近い。pomeraはそんな単機能なガジェットでありながら、ライターやブロガーの心を掴んで大ヒットとなっているのだ。

冬休み初日の午後、半ば諦めながらヨドバシカメラのウェブサイトを見ると「数量限定入荷」の表示。急いで店舗に電話をかけホワイトを取り置き、意気揚々とpomeraを迎えに行った。そして今、pomeraでこの文章を書いているのだ。

年末に欲しいものを買うということは「自分へのご褒美」的な意味合いも、無くはない。色々あったけれど一年間の仕事もなんとか乗り切った。でも本当の理由はほかにある。

ある友人氏は、写真日記 “デイ・バイ・デイ” のことをこう言った。
『あれ見るとね、なんか元気がない日っていうのがわかるのよ。で、やっぱりそういう日もあるよね、って思ってなんか安心するのよね。』

自分の情けなさに打ちひしがれたり、納得できないことに腹を立てたり、不安定な状況に心揺らいだり。
日常なんて良いことばかりがあるわけじゃない。読んだ本がすぐに役立つ日常でもない。だからもっと文章を書きたいと思った。


本日の1曲
ハイウェイ (Alternative) / くるり
youtube


関連エントリー
2008/11/01 『買い物日誌009 あたらしい冬の私
2008/11/01 『買い物日誌008 ひのきのときめき
2008/10/19 『買い物日誌007 文具売場で逢いましょう
2008/10/01 『買い物日誌006 パーフェクトな記念品
2008/09/12 『買い物日誌005 二酸化炭素とロックンロール
2008/08/21 『買い物日誌004 太陽のお恵み
2008/08/17 『買い物日誌003 まなつのねどこ
2008/08/10 『買い物日誌002 慎ましいソーダ
2008/07/12 『買い物日誌001 明け方のピエール


リニューアルオープンのお知らせ


今日リヴィング・トーキョーはリニューアルオープンします。
URLはそのまま。今まで通りにアクセスいただけますが、実はブログシステムごと変わっています。
 
ブログシステムは、8月に開設したデイ・バイ・デイと同じ『WordPress』を使っています。(デイ・バイ・デイは、予想以上にたくさんの方に見ていただいているようです!)
 
WordPressの良いところは、プラグインが豊富にあることです。自分のブログに必要な機能だけを選んでカスタマイズしていけるところが気に入っています。
 
例えば、現在右サイドバーにある『人気エントリー』では、閲覧回数の多い記事が表示されています。これは『WP-PostViews』というプラグインで海外の開発者が配布しているものです。これまではブログパーツでしか対応できなかったものが、プラグインによって簡単でスマートに実装できます。世界的にシェアされているブログシステムだからこそ選択肢が多いんです。
 
サーバーも契約済、ドメインも取得済なので、ブログの引越にお金がかかったわけではありません。ただ、想定外の手間がかかってしまいました。
 
一般的にブログの引越は旧ブログから記事をエクスポートして、新ブログにインポートするだけで済みます。ところが、JUGEMのエクスポート形式は独特で、WordPressにそのままインポートすることはできませんでした。
 
いくつかの手段を検討しましたが、最終的に全自動はいさぎよく(?)諦め、全ての記事を手動で移行することにしたのです。これは地味で骨のおれる作業です。
431の記事と822件のコメントをコピー/ペーストし、本来投稿された日時に設定しなくてはなりません。
 
引越までの道のりはこうです。

1. 新ブログ用WordPressをサーバーにインストール
2. 新ブログのテーマ(テンプレート)をカスタマイズ
3. 旧ブログの全記事を新ブログに手動で移行
4. 旧ブログの画像ファイルをサーバーにアップロード
5. 新ブログ管理画面で、記事内にある画像タグの全てを手動で書き換え
6. 旧ブログの全コメントを新ブログに移行
7. ドメイン設定  

 
ようやく記事の移行が終わったのでここで公開することにしました。

実は4〜6の作業が終わっていないので、リビング内の他の記事へのリンクは無効になっています。見辛い部分があるかと思いますが、順次調整していくので少しお待ちください。まだ完全に移行が終わったわけではありませんが、ちょっとした達成感はあります。
 
リヴィング・トーキョーは来月3周年を迎えます。おそらくこれからも長くブログを続けていくでしょう。だから思い切って引越しました。
リニューアルしたリヴィング・トーキョーをよろしくお願いします。


本日の1曲
My Drive Thru / Santogold, Casablancas, NERD


デイ・バイ・デイ はじめます

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本日、デイ・バイ・デイをオープンします。
http://day.living-tokyo.com/

ブログを開いても更新されてないと、がっかりしちゃう。こんな、ありがたくも悩ましいご意見をきっかけに、写真日記ブログの開設を思い付きました。

デイ・バイ・デイは「WordPress」というブログソフトウェアを採用しています。サーバー契約、デザインカスタマイズ、ドメインの設定を乗り越えて、ようやく完成です。

さらに、リヴィング・トーキョーに来ていただいた方に更新状況をお知らせできるよう、トップページに最新エントリーの写真を表示したいと思いました。はじめから考えていたことでしたが、ビジョンはあっても構築のスキルが追い付かない状態です。
そんな自分にアドバイスをくれたのは盟友・イーゴン氏でした。
 

イーゴン【 いーごん 】((米)) egon,((英)) egon
1.《人名》杉並区在住のWebディレクター。面白そう
なことにはとりあえず手を出してみる男。新しいWe
bサービスに目がないが、飽きるのも人一倍早い。通
称は自らが結成していたバンド名に由来。黄色好き。
▼参考サイト:イーゴン自治区 http://egon001.blog94.fc2.com/

サイドバーに設置したブログパーツは、エントリー投稿時に生成されるRSS情報を利用して、自動的に画像が更新されるようになっています。

リヴィング・トーキョーに毎日更新が帰ってきた!?
こちらにお越しいただいた際には、ぜひデイ・バイ・デイも覗いていってください。

本日の1曲
Air Painter / CSS


彼女は死んだのか、本当に?


アートディレクターの野田凪(のだ・なぎ)氏が亡くなった。享年35歳。独自のコワかわいい世界観で、突出した才能を見せつけていた彼女。海外のエージェントに所属し、メディアでは海外の名だたるクリエイターと並んで紹介される人だった。

そのニュースを知ったのは9月12日の朝。情報を調べようとするも、訃報はなかなか見つからない。彼女が設立した宇宙カントリーのサイトにも情報はない。ブログは6月の更新で止まっている。

検索して行き当たるのは個人のブログばかり。一般に馴染みの薄い「アートディレクター」という職業についていたものの、アーティストのミュージックビデオや有名な広告を手掛けてきた人だ。世間ではほとんど無名の映画監督が大麻所持で捕まったときでさえ、報道はあったというのに。

今回奇妙だったのは情報が見つからなかったことだけではない。死亡の話題を伝えるブログで、この訃報が何かのパフォーマンスでないかと勘ぐる人がいたことだ。

彼女は以前、自分の作り出したキャラクター・ハンパンダの葬儀のパフォーマンスを行った(Mopix記事)。彼女は喪服姿でそこに佇み、ハンカチで涙をぬぐった。だから今回のニュースを聞いた人達のうちの一部が彼女自身の訃報を信じられなかったのだ。

「(葬儀の)パフォーマンスのニュースを間違えて伝えているのではないか」
「でも、彼女が人の命をネタにするとは思えない」

情報は横並びで皆が憶測を述べているに過ぎない。これだけインターネットが普及していながら、確かな情報が判らない状況というのは不可思議な事態だった。


彼女は、広告の手法ではなくアートに近いそれで世界観を作り上げた。一連の作品からクラフト感を感じ、その度に、もの作りが好きな人なんだなぁ、という印象があった。

2005年のラフォーレの広告は、グレートーンでモノクロの世界を作りカラーフィルムでそれを撮影したビジュアルを使用した。それは、アートとして扱われても差し支えない作品で、アートは広告になり得るのだと気付かされた。

海外のWebサイトで彼女の訃報が掲載され出してから、混乱はおさまりつつある。今回の数日間の「混乱」は、皮肉と言えば皮肉な事態だった。しかし、それだけ多くの人が彼女の個性を受け取っていたことも確かなのだ。
誤解を恐れずに言えば、自らの死の誤報を流すことも、“彼女ならやってもおかしくはない” 。アートを広告の舞台でやってのける、本当に創造的な人だったと思う。

心から哀悼の意を捧げます。天国でも楽しいパーティーがありますように。

・所属エージェント/Partizanのページ
Nagi Noda Passes Away | Creativity Online の記事


本日の1曲
Forever And Ever / Mew


6年後のハーレム



今ニューヨークのハーレム地区は何度目かの大きな変化を迎えているようだ。今年の春には一部の地区計画基準が40年以上振りに改訂され、19階建てまでのビルが建築可能になったらしい。ちなみに「前回取材時(2002年)に改装中だった『アポロ劇場』は、お色直しを終え小ぎれいに」なったそうだ。

10月号のEsquireに目を通していると[The American Way]というコラムが目についた。ページの上部には見覚えのある表紙写真が掲載されている。そのニューヨーク特集は美しい写真と共に、ハーレム地区の移り変わりをレポートした印象的な特集だった。
そして最新号のコラムで、2002年にハーレムを取材した筆者は、ささやかな続報を伝えた。

この部屋の本棚には沢山の雑誌のバックナンバーが収納されている。もちろん、発売日から時間が経てば情報は古くなってしまう。
この建物はまだあるのか、このデリカデッセンはまだ営業しているのか、 少し前の雑誌を眺めながらそう思うこともある。

テクノロジーやタウン情報など、日々進化する分野の情報はインターネットで知ればいい。遥かなる土地の現在も、きっと誰かがインターネット上に情報を発信している。なにしろ、一度印刷されてしまった情報は「上書き」も「再編集」もできないのだ。

最新の情報が知りたければ、雑誌は情報源としてインターネットに敵うまい。
__ だって紙の情報は古いでしょう?
いつの間にかそんな価値観が定着し、情報の種類によって媒体を使い分けていることに気付く。だから、そのたった一行の報告に自分でも意外なほど驚いてしまったのだ。

同じ人間から、数年後の同じ雑誌で。余談程度にさりげなく伝えられたその一文は、まるで友人から報告を受け取ったかのような親密さを感じさせた。

(ところでこの[The American Way]を読んだ人の中に、前回のハーレムの記事を覚えている人はどれだけいたんだろう?)


本日の1曲
Ask Me Anything / The Strokes


21世紀の文字列


プラットホームの風景や、スカートの紺色の裾。朝の通学時間になると続々とブログ記事が投稿され、ブログポータルサイトはちょっとした賑わいをみせる。
彼女たちは無意識的に記録を残していく。携帯からインターネット上に文章を公開するなど、10年前には想像できなかったことだ。

そんなさまを見ていると、幼い頃に記念碑の下に埋めたタイムカプセルのことを思い出した。もうあれは掘り起こされたのだろうか。上京してロクに故郷にも帰らない自分にはその知らせもない。
21世紀にタイムカプセルは必要だろうか? 今世紀の高校生は、大人になっても高校生の自分にアクセスすることができる。

少し前に、若いアナウンサーが自殺してニュースになった。最近様子がおかしい、と芸能ニュースが報じた時、彼女のブログを一度見たことがある。そしてその数日後に彼女は死んでしまった。
自殺のニュースを聞いてからブログを見ても、ブログは以前と何ら変わりないように思えた。その後、“気の利く” 周囲の人間によってブログはひっそりと閉鎖された。

一方、ブロガーが死んでも放置され続けるブログもある。以前頻繁に訪問していたとあるブログは、ある日を境に更新されなくなった。彼から発信された文章に彼の息づかいを感じる。それは数年経った今でも変わらない。たまたまアクセスした人は、彼がもういないことをきっと想像できないだろう。

死者の遺したブログには、またすぐに記事が更新されそうな気配が満ちている。そしてかつて最新だった更新日時だけが、みるみる過去になっていく。

国内のブログ総数は1,690万件に達したと先日総務省が発表した。全世界では1日当たり12万(1秒当たり1.4)の新しいブログが作成され、1日に投稿されるエントリ数は約150万件にのぼるそうだ。

人々はインターネット上に言葉を放ち、インターネットの無限の広がりは言葉の氾濫を許してくれる。通学途中の女子高生や、自殺したアナウンサーや、自分や、友人達が放った言葉は記号によって同列に表示されそこに漂っている。

少し前まで、過去とは記憶を辿るものだった。でもこれからは、死者さえも生前の記録をありありと残して死んでいくようになる。21世紀の生活は、インターネット回線無くしては見ることのできない無数の言葉に取り囲まれている。

そんなことを考えていると、ブログは何百年後にも閲覧できるメディアなのだろうか? という疑問が湧いてきた。

21世紀を生きた我々が遺した文字列に、いつかはアクセスできなくなる日がくるんだろうか。古代エジプトのパピルスみたいに、ブログも遠い昔の媒体として淘汰されゆくものなのか。
最低いつまで、この記録にアクセスできるんだろう ___?

でも10年後ですら想像できなかったように、我々は遠い未来を想像できない。


本日の1曲
隠せない明日を連れて / Tokyo No.1 Soul Set


お散歩・トーキョー 〜緑浮き立つ神宮外苑編〜


あのライトが春樹的なの?
うーん、球場かな? なんだっけ、最近短編集読んでさ。回転・・・
『回転木馬のデット・ヒート』?
そうそう。その中に球場の近くに住んでる男の子の話わかる? 部屋の窓から女の子の生活覗いて、“つくづく女の子が判らない” みたいな話なんだけど。

昼頃に電話がかかってきて、我々は神宮外苑に散歩に行くことにした。彼女は青山に届けものがあるからと車でやって来た。ファックスで済ませてもいいはずの書類をわざわざ届けに行くらしい。彼女はファックスというものをあんまり信用していないみたいだった。

週末の都心の公園には「運動が生活の一部になっている人達」がいた。グランドの隅ではフットサルチームの青年たちが談笑し、トラックの中に整列した子供たちはトレーナーの指示通りに体を動かしていた。

アイススケート場から出てくる少女たち、音もなく視界を横切るロードバイク、学生が担ぐドラム型のナイロンバッグ。そんな光景を見ていると、さながらここがスポーツアイランドのように思えてくる。

緑に囲まれた神宮外苑には、大小様々なスポーツ施設が揃っている。地図で見てみると周りを主要道路に囲まれ、緑が浮き立ち、島のように見えなくもない。
ここにはスポーツを愛する人が集まり、各々が選んだ競技の練習に勤しんでいる。犬だって溌剌と体毛をなびかせているのだ。

夕刻、赤坂御用地を一周することを思い立った。先ほど降った雨で空気はひんやりとしていて、植物の青いにおいが心地良い。明治記念館を眺めながら緩い上り坂を歩いていると、何人かのランナーが軽快な足取りで我々を追い抜いていった。

坂を上りきって御用地の内部を眺めると、正面に東京タワーが見えた。東京タワーの光が雨上がりの空にぼんやり滲んでいてとてもきれいだった。

豊川稲荷を過ぎ、日の暮れた青山通りを歩く。人通りの少ないこのあたりを歩くのはとてもいい。(人々は週末に青山一丁目より奥に進まないのかもしれない) 我々はイチョウ並木を通り、1時間ばかりかけて神宮球場へ戻ってきた。

彼女が言っていたのは『野球場』というタイトルの短編だった。彼女は簡単に物語を説明すると、言い訳をするみたいに「私つい最近読み返したばかりだから」と言った。

村上春樹氏は、かつて千駄ヶ谷でジャズ喫茶を経営していて、青山界隈を描いたシーンは度々作品に登場する。神宮球場で野球を見ている時、「ふと思い立って」小説を書き始めたというエピソードはファンには有名な話だ。
そんなわけで、村上作品を愛読する我々は、週末の神宮外苑を歩きながらムラカミ的な空気を楽しみもした。


本日の1曲
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