Archive for the '高円寺コラム' Category

高円寺商店街ライフ

友人氏宅を訪れると友人氏は履歴書を書いていた。それは就職活動をしていた何年か前の話で、彼は机の上に転がっている何本かのボールペンの”つき”を確認して少し落胆したようだった。そして、一緒に近くの商店街へ出掛けた。彼は文具店でボールペンを買い、商店街を歩きながら花や雑貨を物色していた。

お茶屋では茶葉が秤で売られ、金物屋のワゴンには急須と湯飲みが並び、古書店では古い映画雑誌が積み上げられている。スタスタと歩く友人氏の後方を着いていった。専門の商店で特定のものを買うという行為が珍しく、店先に陳列されたあらゆる商品を眺めていた。

彼は商店の小さくて白いビニール袋を指に引っ掛けて帰宅した。欲しいものを必要な時に必要なだけ買うことが新鮮に映った。

もっとも、デパートやホームセンターに行けば必要なものは大抵手に入る。その頃の買い物といえば一度出掛けたら持ちきれない程の荷物を抱える帰り道と決まっていた。次の買い物が面倒で買い溜めをしてしまうから余計に荷物が増える。

数年後、自分も高円寺に住むことになり、時々商店街をぶらつくようになった。高円寺には商店街がいくつもある。若者が多い土地柄で通りは常に賑わい、新しい店舗も増えている。総菜屋で総菜を買い、電気屋で電球を買い、洋品店でハンカチを買い、古本屋で古本を眺めているとこの街に越してきて自分の買い物スタイルが幾分変化したのを感じる。

商店街のある街は良い。必要なものをちょっとずつ買うという行為を楽しませてくれる。商品を選びながら店をはしごしていると散歩気分でとても楽しい。
帰宅してから購入したものを片付け、商店街の小さなビニール袋の散らかった床を眺める。買い溜め癖はなかなか治らない。


本日の1曲
Too Many Sandwiches / Stereophonics


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2/6 『我が街、高円寺


酔狂的人間模様

このマンションの向かいのビルの1階はちょっとしたスナック街になっているようだ。

引っ越してきてすぐその喧噪と生活を共にすることになった。扉がカランと開く度に轟くカラオケの音や、懐かしのジリリリという黒電話の音。カラオケで「あたぁたぁめてえぇえ〜〜」と悦に入っている歌声。

その歌声を聞く時、いつも同じフレーズでフルボリュームの盛り上がりを見せることから彼が常連客であることが伺える。そして暫くすると乾いた拍手の音が聞こえる。ここまでが毎回同じだ。駅近くのスナック街には毎晩ママ達のゲラゲラという笑い声と酔ったお客の高らかな笑い声が絶えない。

あるお店のママは必ず道端までお客さんを見送りに来る。毎晩何度もそのやりとりが聞こえる。我が家に来る友人達は一度は耳にしたことがあるはずで、その回数を考慮するとお店は結構繁盛しているようだ。(週末はやっぱり客の数が違う!)と勝手に感心したりしている。

「またいらしてくださいネ」「ありがとうございましたッ」というママにしてはヨソイキな客とのやりとりが聞こえたかと思うと、次には「風邪ひくなヨッ!ガハハ」「ころぶなよッ!ガハハ」と常連さんに声を掛けている。言葉は幾分変わるものの、ママの人懐っこい朗らかさは変わることがない。

「あら、雨だねぇ」「寒いわけだよォ、雪だもん!」という声が聞こえるとママが立ち去ってからそっと窓を開けてみたりする。ママは気象情報も教えてくれるのだ。
そして年末年始には挨拶を忘れない。「来年もよろしくネッ」と「今年もよろしくネッ」は12月初旬から1月終わりまで続いた。

ある休日の昼下がり、昼寝でもしようかとベッドに寝っ転がっていると、向かいの道端からゲラゲラと聞き慣れた笑い声がする。まだ昼の1時といったところだ。片付けやらを考慮すると7時くらいまでは店にいるはずだし、開店までにはまだ時間がある。その「ど真ん中」的な時刻におののく。ママはいつ寝ているのだろう?

近隣にスナックや居酒屋が多いせいで部屋の真下の道端で酔っぱらいが喧嘩を始めておまわりさんが駆けつけることもある。明け方に若者グループが大声で歌い出して仲良く盛り上がっていると思うと、そのうちやっぱり喧嘩を始めてしまう。穏やかではない彼等のファイトで折角の睡眠が台無しになることもある。オイオイ勘弁してくれよ、と思いつつも部屋の窓を開けて観戦してしまったりする。

早朝の道端で客を送り出すママに遭遇したことがあった。いつも階上から声を聞いたりチラッと見たりするだけだったが、朝日の中で見るママにちょっとした感動を覚えた。ママは和服を着ていた。毎日わざわざ着物を来てお客さんを待っているということに驚き、感動した。

日々酒場で繰り広げられる光景に、なんとなく人間の営みのようなものを感じてしまうと言ったら大袈裟だろうか?

さっき、今夜はなにを書こうかナ、とベッドに寝そべっていたらママの声が聞こえてきた。そしてこの文章を書き始めた。どうやら、またママが客を送りにやってきたみたいだ。


本日の1曲
Whisky & Unubore / ZAZEN BOYS


我が街、高円寺

中央線沿線に住み続けていたが、引越してくるまでは高円寺とはあまり縁が無かった。友人伝いに聞く話では「20000V」「牛丼太郎」がキーワードだった。彼女が「20000Vでライブを観た後に200円の牛丼を立ち食いする」と言っていたからだ。ハードコアだ。あとはかの有名な「純情商店街」か。

中央線沿線の不動産屋を廻り続け、やっと気に入った物件と出会った。
4件目のマイルームは高円寺に決定した。

家賃は高いが物価は安い、と巷のみなさんが口にするイメージはほぼ当たっている。純情、ルック、パル、あづま通り、と4つの商店街があり週末などは老若男女で賑わっている。モヒカン&鋲ジャンのパンクスのお兄さんもよく見かける。
郊外のように大きなホームセンターも無く、若者が集まる街というだけあって人通りが多い。
さすがに田舎の商店街とは違って活気がある。

自分が生まれ育った町の商店街を我が家では皮肉を込めて「シャッター通り」と呼んでいた。非常に残念ながら活気がまるでない。店舗も営業しているのか休業中なのかわからない状態で、夕方過ぎにはほとんどシャッターを降ろしている。パンクスなんかが歩いていたら「広報し○だ」に載ってしまうんじゃないかというくらい地味である。

そして中央線沿線の家賃はやっぱり高い。不動産を廻った感想だと、吉祥寺、中野、高円寺が高値TOP3なのではないだろうか。吉祥寺は学生時代によく遊びに出かけたし、大好きな街だ。平日の昼間にポケッとベンチに座っていてもまるで浮かない井の頭公園は素晴らしい。いつか必ず住んでみたい。

高円寺は古着の街、と巷のみなさんが口にするイメージはほぼ、というか完全に当たっている。
こんなに需要があるものか、と驚くくらい古着屋がある。
現にこの部屋の真下も古着屋である。隣も、向かいも・・・要するに四方八方を古着屋に囲まれている。残念なことに自分はあまり古着を着ないけれど、好きな人にとっては宝の山のような状態かもしれない。週末も昼過ぎになると街にワッと若者が増える。

あと特筆すべきはその商店街の中にある店舗の個性。
この街ではCDを買うよりもレコードを買う方がたやすい。実際、CDはどこで売っているのかいまいちわからない。街を歩いている限り目につくのは中古レコードばかりだ。

以前、流行りの海外ドラマにハマり、レンタルビデオ店をはしごしていた。通りを歩いていて目についたビデオ店に入店したところ、そこには日活ロマンポルノや寺山修司の実験映像のビデオが大々的に陳列されていた。
いや、嫌いではない。でもその時のマインドとは明らかに違っていた。
高円寺の、高円寺たる由縁を垣間見た出来事だった。


本日の1曲
Like A Rolling Stone / Bob Dylan