2月 9th, 2010 by taso
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仕事からの帰り道、マンションに近付くと無意識に部屋の窓を見上げています。そして、そこにハクがいると思うと笑顔になりました。玄関のドアを開けるとすぐそこで待っているはずです。時々待っていないときもあるけれど、それでも。
人間がトイレに入ると、寝ていてもわざわざ起きてきて、不機嫌そうに扉の角に頭を器用に撫で付けたりして、そのうちこちらの尿意につられるのか、猫用のトイレに入って用をたします。ハクとの暮らしは、口元が緩む出来事の連続でした。一日残らず、微笑みをくれた愛しのハク。
去年の夏、盆のさなかに駆け込んだ病院で腎不全と診断、そのまま入院してから二週間、一度もこの部屋に戻ることがなくハクは永眠しました。週末には一時退院ができるかもしれないと希望を抱いていた金曜日の朝でした。
入院中、毎日見舞いに行きながらいろいろなことを考えました。衰弱しているハクにどこまで治療を続けるべきなのか、できることは全てしたいと思う自分の気持ちは本当に正しいのか。何が最善なのかわからず、ずっと気持ちが揺らいでいました。
『ハクちゃんもまだまだ美味しいもの食べたり、一緒にいたいと思ってると思いますよ。』と主治医の先生は静かに言いました。その言葉に頷いたら涙が床にポトと落ちました。
大学生になった年、1997年の秋、20才の時にハクはやってきました。ハクと暮らした12年間は、人生でもっとも多感で、もっとも雑多な時期だったでしょう。親元を離れた一人暮らしで、昼夜の境目もない生活を過ごしていました。
ハクがまだ元気だった頃から、いつかは訪れる別れに怯えていました。不安が訪れた時は、ハクのふかふかの体毛に顔を埋めて、両腕で体を強く抱きしめながら『ずっと一緒にいようナ。』と口に出して呟きました。やがて、全ての生き物は死を迎えるという動かしようのないゲンジツを思い、自分が先に死ぬよりも良いのだと気持ちを鎮めていました。
ハクが永眠した日も、翌日霊園に連れて行った日も、友人が付き添ってくれました。あやKはカラフルな花でバスケットの棺をデコレーションをしてくれ、あきCはハクの大好物を詰めたリボンかけのお弁当を棺に入れてくれました。
あの真っ白でふかふかとした体に二度と触れることができないと思うと、悲しくて悲しくて霊園からの帰り道は声を上げて泣きました。
しかし、予想もしなかったことに、あらゆる事象がハクとの別れを辛いだけにはしませんでした。
信頼できる先生方にハクを診てもらえたこと、諦めていた輸血が一度は叶ったこと、病状を心配してくれる友人達がいたこと、ブログに沢山のコメントをいただいたこと。友人達の贈ってくれた花がこの部屋で柔らかに香っていたこと。
もう息をしていなかったけれどハクとこの部屋で一晩一緒に眠れたこと。
ハクが可愛いハクのままで旅立ったこと。
冬が来れば、ハクのいない布団の隙間を持て余すし、ファンヒーターの前のハクの定位置を眺めてしまいます。台所に立てば、さわさわと足元にまとわりつく感触が恋しくなります。腕に点滴をしていたのに遠慮して、入院中はハクを抱きしめなかったけれど、体の半分でも抱きしめればよかったと後悔しています。
ハクはブログにもよく登場していました。ハクはもうこの部屋にいませんが、ハクの話題が出ないこの場所(ブログ)がずっと奇妙でした。たとえブログ上でも、ハクという猫がいたことを誰かが知っていてくれるのは本当に幸せなことだと思っています。だからいつかはここでハクの最後の記事を書きたいと思っていました。寂しさと向き合うのが嫌で書けなかった記事も、半年が経ち、ようやく報告することができます。
ハク。お前のおかげでずっと幸せだったよ。
ありがとうありがとうありがとう。
また、会おうね。
本日の1曲
恋はいつも幻のように / ホフディラン
▼ 関連エントリー
ハクが入院している間『デイ・バイ・デイ』で病状の経過を毎日報告していました。
8月16日から8月31日までの記録は8月のアーカイブからご覧いただけます。
●デイ・バイ・デイ 8月のアーカイブ
ハクとの出会いのエピソードや暮らしの様子は「愛しのハク」カテゴリーでご覧いただけます。
●リヴィング・トーキョー 「愛しのハク」カテゴリー
2008/03/01 『
愛しのハク 〜北風とナーバスな猫、編〜』
2007/11/18 『
愛しのハク 〜ぼく達のささやかな10年編〜』
2007/06/20 『
愛しのハク 〜クッションのあたたかな凹み編〜』
2006/12/11 『
愛しのハク 〜純白のファッショニスタ編〜』
2006/11/26 『
愛しのハク 〜我が家の冬支度編〜』
2006/11/09 『
愛しのハク 〜のっぴきならないお出かけ編〜』
2006/10/27 『
愛しのハク 〜オレ関せず編〜』
2006/10/11 『
愛しのハク 〜ハクの宅急便編〜』
2006/09/29 『
愛しのハク 〜研いで、候。編〜』
2006/08/11 『
愛しのハク 〜3時間のショートトリップ編〜』
2006/07/18 『
愛しのハク 〜人知れずタフネス編〜』
2006/07/04 『
愛しのハク 〜勝手にしやがれ編〜』
2006/06/11 『
愛しのハク 〜飼い猫も潤う6月編〜』
2006/05/03 『
愛しのハク 〜おかか純情編〜』
2006/04/10 『
愛しのハク 〜違いのわかるオトコ編〜』
2006/03/16 『
愛しのハク 〜眠れぬ夜は君のせい編〜』
2006/03/01 『
愛しのハク 〜MY CAT LOST編〜』
2006/02/11 『
愛しのハク 〜ルームメイトは白猫氏編〜』
3月 1st, 2008 by taso
机に乗ってものを落とす。
観葉植物の茎を折る。
皿の隅のキャットフードは残す。
そんな風でも文句を言われないので、これからもその癖はきっと直らない。まあ、それでも良い。
ペットとの関わり方は親子のそれによく似ていると思う。
例えば、ぺットに洋服を着せる人は、子供にも洋服を沢山買い揃えそうだし、小さくて高価な缶詰をペットに与える人は、スーパーマーケットのお惣菜で子供を育てないような気がする。
育てるという行為は、育てる人の価値観を反映する。それが猫であっても人間であっても、きっと大差は無い。
我が家のハク氏に対しては、何かをしつけた覚えが無い。(トイレの習慣は、うちにやってきた時にもう身に付いていたみたいだった)考えてみれば自分とハクとの関係は、自分と親の関係に似ていなくもない。しかし両親と大きく違うのは、自分がひどくだらしないところだ。
先日、ハク氏を半日動物病院に預けた。その医院には以前一度預かってもらったことがある。前日に電話を掛けて予約をしたというのに、当日訪れると院内の誰にもそれが伝わっていなかった。
ペットを預けるときには感染症を避けるため、一年以内に受けたワクチン接種の証明書を提示しなくてはならない。しかしその日は証明書を自宅に忘れてしまった。
確か1年前くらいに予防摂取をしたはずだったけれど、それが一年以内である証拠がない。数人のスタッフと獣医氏は、待合室にいる自分とハクの入ったキャリーバッグを交互に見た。
受付カウンターに置いてある病院名の入ったプレートを見ると、昨日予約した医院となんだか名前が違う。同じ町内の違う病院に予約を入れていたのだ。
予約無。ワクチン証明書無。診察券も忘れた。足元に置いたキャリーバッグから、不安そうな愛猫の鳴き声が聞こえる。こちらが途方に暮れていると、獣医氏がしぶしぶ頷いてくれた。
家までの帰り道、いぶかしげな獣医氏の顔や、他の動物の気配に身を縮めるハク氏の姿を思うと、次第に早足になった。いくらこちらが説得したところで、ハクの安全性を証明できるものがない。擦り切れたジーンズにニット帽という姿ではさらに説得力に欠けていたかもしれないなどと、どうしようもないことを考える。
証明書は机の引き出しに無造作に閉まってあった。そして案の定、前回の摂取日から1年が経過していた。これでまたハク氏の立場が悪くなってしまった。病院に電話をかけ、恐縮しながらワクチンの接種を依頼した。今ハクの潔白を証明できるのは3種混合ワクチンしかない気がした。
引取りの時間が来て迎えにいくと、ハク氏は身体を硬くして唸り続けていた。獣医氏は「ナーバスになってるみたいですね。」と言った。知らない人に囲まれて注射まで打たれたのだから仕方がない。
住み処を点々とする一人暮らしに加えて、(幸運なことに)病を患うこともあまりなかった。だから東京にはハク氏のカルテがない。一歩外に出れば、ハクの身元を証明できるのはこの頼りない自分だけなのだ。
日の暮れた路地を歩きながら、その日一度でも彼が疑いの目に晒されたことにいたたまれない気持ちになった。こうして “子供” は、親のだらしなさに時々巻き込まれてしまう。冷たい風がなるべく入らないように、ナーバスな猫が入ったバッグを抱きかかえて家に帰った。
本日の1曲
About You / Teenage Fanclub
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2007/11/18 『愛しのハク 〜ぼく達のささやかな10年編〜』
2007/06/20 『愛しのハク 〜クッションのあたたかな凹み編〜』
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2006/10/11 『愛しのハク 〜ハクの宅急便編〜』
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2006/03/01 『愛しのハク 〜MY CAT LOST編〜』
2006/02/11 『愛しのハク 〜ルームメイトは白猫氏編〜』
6月 20th, 2007 by taso
一人暮しで猫を飼っていると言うと、『じゃあ家に居ないときはどうしてるの?』と聞く人は多い。不思議と猫の品種や名前の話にはなりにくい。ハクと暮らして10年、何度このやりとりが行われただろう?
それに留守中の飼い猫の様子は誰にもわからないから、頻繁に繰り返されるその質問にはいつまで経っても答えがでない。一体何をしているんだろう。
外出する時は、キャットフードと水の量をチェックし、必ず猫の姿を確認してから家を出る。それから(聞いていようがいまいが)猫に向かって『行ってくるよ』と声を掛ける。
ウィークデイには最低でも12時間は家を空ける。出掛ける時にはそれなりに気を配らなくてはいけない。猫が落ちないよう洗濯機の蓋を閉め、いたずらされたくないものは隠すか片付ける。部屋の空気が篭らないように浴室の窓を開け、カーテンとブラインドで室内の明るさを調節する。そうした一連の流れは身に染みついていて、身支度のついでにほとんど無意識に行われる。
ハクにとって留守番は普通のことであり、出掛ける寸前に甘えて困ることもほとんどない。今や、鞄を持って玄関に向かう飼い主をちらっと横目で見遣るのみで大して気にしている様子もない。・・・慣れたものだ。
玄関のドアがばたんと閉まった時から、半日に及ぶ猫の留守番が始まる。こちらが自動改札を通り抜ける頃、彼はおもむろに居眠りを再開したり、思い付いたように用を足したり、昨日と違うフードの味見を始めたりするんだろう。
人間は仕事、猫は留守番。なにしろハクの留守番歴も今年で10年になる。
しかし部屋に残された愛猫を思うと、ちょっと落ち着かない気分になるのは今も変わらない。誰も居ない部屋に爪研ぎの音を響かせ、時折部屋を迂回して遊び相手を探しているんだろう。
猫氏は消し忘れた家電のスイッチを切ってくれるわけではないし、なにかあったら携帯に電話をよこすわけでもない。ハクと暮らしだしてから外泊は滅多にしなくなり、用事が済んだらなるべく早く帰る人になった。
ある夜、暫くの間ハクの姿を見ていないことに気付いた。名前を呼んでも返事がない。心配になり姿を探すと、狭い隙間から出られなくなって暗がりでじっと息を潜めていた。こちらの手助けがなくてはどうにも脱出不可能な事態だった。
友人氏は『そういうのは、誰か居る時にやるって決めてんだよ』とちょっと感心したように言った。そうか。「成功するかわからないチャレンジ」は飼い主の在宅中にやっとくルールを会得したのか。
玄関を開けると、いつもそこにハクが待っている。足音がするたびにここに来ているのか、飼い主の足音を聞き分けられるのか。
さっきまでハクが寝ていたと思われる温かなクッションの凹みに手を当ててはなんとなく彼の留守番を想像したりする。
本日の1曲
今日はなんだか / SUGAR BABE
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2006/12/11 『愛しのハク 〜純白のファッショニスタ編〜』
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12月 11th, 2006 by taso
カラフルな輸入物のおもちゃや美味しそうなおやつ。自動給水機能のついた水飲みトレイにふかふかのベッド。
動物と暮らす人間にとってペットグッズ売り場はやはり楽しい。
我が家で留守番をしている愛猫ハク氏に思いを馳せながら売り場を見物しているとペット用の靴下を見つけた。1セット4足の小さなニットの靴下だった。シンプルな単色からマルチボーダーまで種類も豊富だった。
友人に教えると彼女は感嘆の声をあげた。グレーと黒の縞模様の彼女の愛猫にどれが似合うかと考えあぐねている様子。彼女は靴下をつまみながら『いいよネー、白いとなんでも似合うから。』と少し羨ましそうに言った。
そうだ。我が家の白猫ハク氏は無地だからどんな柄でもそこそこ似合う。けれどきっと彼は靴下を穿きたがらないだろう。
我が家にハク氏が来て間もない頃、ペットショップで首輪を買った。売り場を右往左往し小一時間迷った末にペパーミントグリーンの革製の首輪を選んだ。
帰宅して早速ハク氏に首輪をつけてみた。当初は慣れない異物感に戸惑い、前足で首輪を掻く仕草を見せていたけれど、白い体毛にニュアンスのある色味が良く映えた。我ながら自分のセンスに脱帽した瞬間である。なかなかお洒落に見える。
首輪にもそのうち慣れるだろうと部屋をあとにした。数十分して部屋に戻ると壁際に猫氏の姿があった。彼は壁の一点を見つめ、その場に凝固していたのである。顎下から伸びた首輪の輪っかは二つの耳を押し潰し、もうどうにもならない状態になっていた。
おそらく彼は目を離したあとも、首輪を外す作業を続け、一番顔幅の広い所まで首輪をずり上げる事に成功したが、それから先がどうしても抜けなかった。猫氏は険しい表情で屈辱に耐えているように見えた。
かくしてあっさりと首輪は諦めた。なんとなく猫は首輪をするものだと思いこんでいただけで、インドアキャットである彼には元々必要なかったのかもしれない。
ハク氏は洋服も着ないし、靴下も穿かない。それ以降は真っ白のまま素っ裸の状態で暮らしている。
本日の1曲
Snowscape / the band apart
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2006/11/26 『愛しのハク 〜我が家の冬支度編〜』
2006/11/09 『愛しのハク 〜のっぴきならないお出かけ編〜』
2006/10/27 『愛しのハク 〜オレ関せず編〜』
2006/10/11 『愛しのハク 〜ハクの宅急便編〜』
2006/09/29 『愛しのハク 〜研いで、候。編〜』
2006/08/11 『愛しのハク 〜3時間のショートトリップ編〜』
2006/07/18 『愛しのハク 〜人知れずタフネス編〜』
2006/07/04 『愛しのハク 〜勝手にしやがれ編〜』
2006/06/11 『愛しのハク 〜飼い猫も潤う6月編〜』
2006/05/03 『愛しのハク 〜おかか純情編〜』
2006/04/10 『愛しのハク 〜違いのわかるオトコ編〜』
2006/03/16 『愛しのハク 〜眠れぬ夜は君のせい編〜』
2006/03/01 『愛しのハク 〜MY CAT LOST編〜』
2006/02/11 『愛しのハク 〜ルームメイトは白猫氏編〜』
11月 26th, 2006 by taso
冬場になるとこの部屋の家電がいくつか増える。乾燥を和らげる加湿器と今年購入したばかりのファンヒーター、ついでに空気清浄器も設置した。
久々に季節家電を出すと猫氏は機械の周りをうろうろして、匂いを嗅いだりして存在を確かめる。インドアキャットにとって室内環境を左右するアイテムの登場は一大事なのだ。
インターネットで注文しておいた換えのフィルターが届いたので、加湿器を稼動させることにした。まずは本体をから拭きし、タンクに水をたっぷり注ぐ。昨年購入した気化式加湿器は非常にシンプルな作りをしていて、注入口には蓋もない。
注いでいる傍から猫氏が水を飲んでいる。猫氏は去年の感覚を思い出したみたいにグビグビと飲みまくる。
猫が乾燥を嫌うのかは定かではない。我が家の加湿器は水飲み場のひとつとして猫氏に歓迎されているようだ。
猫が布団にもぐりこんでくるのは猫と暮らす人間にとっては冬の楽しみなイベントである。こちらが眠りに落ちる気配を察すると、枕元でひと鳴きし布団に入れろとせがんでくる。首元の隙間からモソモソと布団に入り、中で方向転換し枕元に頭を出す。
ところが暖房器具で部屋が暖まっているために、あまり頼られなくなってしまったのである。いつもはベッドに潜り込んでくるはずが、ヒーターの前にはりつき、ベッドに来なくなってしまった。しかも消すのを忘れて寝てしまうことも多く、朝まで離れ離れで
寝ることになる。
朝起きると無意識に猫氏の姿を探す癖があるが、最近では朝までヒーターの前で寝ていることが多い。 これは結構淋しい。
冬になると猫氏は加湿器の注ぎ口から水を飲み、ファンヒーターの前で気持ちよさそうに寝る。ファンヒーターが運転していない間もその前に居座り顔を洗ったりしている。
やって来たるは東京の冬。
本日の1曲
Upon This Tidal Wave Of Young Blood / Clap Your Hands Say Yeah
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2006/11/09 『愛しのハク 〜のっぴきならないお出かけ編〜』
2006/10/27 『愛しのハク 〜オレ関せず編〜』
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11月 9th, 2006 by taso
ひとり暮らしの飼い主に貰われた我が家のハク氏はインドアキャットとして育ち、誰よりも小さい肝っ玉を抱えて生きている。普段はマンションの鉄壁に守られている家猫にも年に数回のっぴきならない状態が訪れる。
キャリーバックに体を押し込まれ「どこかに」連れて行かれる時、その行き先は病院か長時間移動の電車の中だ。
盆や正月に帰省する度に、地元で評判のいい動物病院にまで車を走らせネコ氏のワクチン接種に勤しんできた。なんとなく始まったそのイベントは、なんとなく今も続いている。
ワクチンは年に一度の接種が望ましい。動物病院からは毎年接種時期を知らせるダイレクトメールが届くようになった。
病院からその知らせが来ると、実家の祖母はわざわざそれを知らせてくれる。するとこちらも(早く連れていかなくては)という気分になってくる。ダイレクトメール効果は絶大であった。
夏に帰省しなかった今年はまだワクチン接種が済んでいなかった。気配を察して逃げまとうネコ氏を捕獲し、近所の動物病院へ向かった。
猫の予防接種は「三種混合ワクチン」が一般的で、接種後は証明証が発行される。 三種とは”猫ウィルス性鼻気管炎”、”猫カリシウィルス感染症”、”猫汎白血球減少症”で、他の猫との接触が無いとしても接種することが望ましい。それに”猫白血病ウィルス感染症”、”クラミジア感染症”を加えたものが五種混合ワクチンである。
若い女性獣医師から説明を受け、どちらにするかの選択が迫られた。『じゃあ、五種で。』と指さえ広げて返答すると、彼女は少し困惑した表情を浮かべた。
三種と五種では費用に大きな差でもあるのだろうか?ちょっと恰好が貧乏臭かったかナ?などとこちらもたじろぐ。
詳細を聞ずして(じゃあ多い方がいいだろう)と判断してしまうのは悪い癖だ。こと飼い猫のことともなると一層判断が鈍ってしまう。どうやら五種混合ワクチンの接種には詳細な血液検査のデータが必要らしかった。昨年末に血液検査を受けたものの、今は手元にデータが無い。まずはこれまで通り三種混合を接種してもらうことにした。
グレーの診察台に乗せられたハク氏は、体勢を低くかがめて唸りまくる。「猫つかみ」の部分に数秒でワクチン接種は完了した。
以前『tasoがそういうことするなんて驚きだよ』と言われたことがある。(そうか意外なのか)とこちらも少なからず驚いた。言われてみれば自分の健康管理にはとことん疎い。
本日の1曲
帰り道 / くるり
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2006/10/27 『愛しのハク 〜オレ関せず編〜』
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10月 27th, 2006 by taso
見舞いに来た同僚氏はいちご味のオブラートに薬を丁寧に包んでくれていた。彼女が慎重に薬をオブラートへ注いでいる時、愛猫ハク氏が背後から忍び寄ってくるのが見えた。
ハク氏は何かを「開封する」音を無視できない。到底食べられないものにもニャーニャー鳴いてよこせという。それがパソコン用の増設メモリや、お得用歯間ブラシであってもだ。
嫌な予感がした。そして次の瞬間、猫氏のチョップのせいで机に無惨に散る薬。猫はいかなる場合も好奇心が勝ってしまう。たとえ飼い主が床に伏せていても。
数日前の朝、吐き気で目が覚めた10分後には激しい嘔吐。自己記録を更新しそうな高熱で頭はフラフラ。内臓から沸き起こるような腹痛で起き上がることもできず、吐きすぎて顔が痛い。
勤務先に欠勤報告をして、ベッドに横になる。横になっても身体が痛い。その状態で見た夢は妙に哲学ライクでちっとも休まらなかった。
午後に突然同僚氏が部屋に訪れた。病院に連行され、腹部エコーをぐりぐりされる。薬を5種処方された。「腸が風邪をひいたのに近い」という曖昧なニュアンスの診断になんとなく納得し帰宅する。
同僚氏はたまっていた皿を洗い、どこにあるかわからない保険証を一緒に探し、差し入れのヨーグルトやスポーツ飲料を冷蔵庫にしまった。夜は鰹節で丁寧にダシを取った美味しい梅おかゆを作ってくれた。
その時室内に充満する鰹節の香りに猫氏はソワソワしていた。うらめしそうに背後から調理の過程を見つめ、おもむろに鳴いてみたりしている。挙げ句の果てには用済みの鰹節の出がらしを求めて三角コーナーに顔を突っ込んでいる。
猫氏はいつも我関せず的な態度である。薬を飲むために用意したコップの水に手を突っ込み、腹が痛いとうずくまっていれば腹の上を歩く。
こっちは病気なんだぞ。朝からのたうち回っていたじゃないか。と言ってみたところで無駄なのだ。こんな時の猫の無邪気さは身に染みて愛しい。
本日の1曲
青葉コック / SAKEROCK
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10月 11th, 2006 by taso
友人宅の猫氏は獲物に果敢に挑み、よく「お土産」を持ってきた。ある朝彼が目覚めると隣にハトが横たわっていたらしい。羽をバサッと広げたハト氏。猫氏も大物をしとめて興奮していたのだろう、大きなハトをわざわざ家に持ち帰ってきたのだ。彼もお土産には慣れているつもりだったが、さすがにハトには驚いたらしい。
猫は獲物を取ると、狩りの成果を見せる習性があり、褒めてもらいたい一心でお土産を持ち帰る。しかしこれが人間にとってはあまり嬉しくない。木の実とか、果実ならよいのだが、大抵は生き物の死骸だからだ。
ある友人宅の猫氏は風呂場からスポンジを持ってきて、おもむろに飼い主の前に置き、その前に立って自慢げに雄叫びをあげる。バスラックにスポンジを戻してみても、その恒例行事は何度も繰り返される。家猫の場合、持ってこられるものは限られているのだけど、特にスポンジはお気に入りだったようだ。
ところで、我が家のハク氏の場合。実家に帰省した際、朝目覚めるとなにかが首の周りに散らばっていた。起きてすぐに顔の近くに異物感を覚えるのはゾッとする。おそるおそる手を伸ばし、確かめるとそれは干しシイタケだった。
干しシイタケ?
肩から首の付近にいくつもの干しシイタケが撒かれていた。まるで棺桶に入れられた死体みたいに。起き上がるとシイタケはパラパラと布団に落ちた。
そういえば前日、愛猫ハク氏はリビングの隅でゴソゴソと何かを漁っていた。今思えばその時、干しシイタケを漁っていたのだった。干しシイタケの入った袋はお歳暮やお中元の贈答品の山の中に埋もれていて、家族ですらその存在を忘れていた。ダシの匂いに誘われた猫氏はしばし干しシイタケに夢中になっていた。
猫氏はわざわざ隣の部屋から、しいたけを運んできた。分厚いビニール袋を根気よく破り、ソファを飛び越え、部屋を出て、廊下をスタスタと歩き、ドアをすり抜けてベッドに上がり飼い主の首元にしいたけを置き、また隣の部屋に戻る。これだけの量を運搬するとなると何往復もしなくてはならなかったはずだ。
彼にとってはとっておきの素敵なプレゼントのつもりだったのかもしれない。真夜中の猫氏のさまを想像してみる。彼は真っ暗な廊下をしいたけを咥えて往復した。夜を徹しての運搬作業で疲れきったのだろう、猫氏はスヤスヤと寝息をたてていた。
本日の1曲
世界 / Chara
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2006/09/29 『愛しのハク 〜研いで、候。編〜』
2006/08/11 『愛しのハク 〜3時間のショートトリップ編〜』
2006/07/18 『愛しのハク 〜人知れずタフネス編〜』
2006/07/04 『愛しのハク 〜勝手にしやがれ編〜』
2006/06/11 『愛しのハク 〜飼い猫も潤う6月編〜』
2006/05/03 『愛しのハク 〜おかか純情編〜』
2006/04/10 『愛しのハク 〜違いのわかるオトコ編〜』
2006/03/16 『愛しのハク 〜眠れぬ夜は君のせい編〜』
2006/03/01 『愛しのハク 〜MY CAT LOST編〜』
2006/02/11 『愛しのハク 〜ルームメイトは白猫氏編〜』
9月 29th, 2006 by taso
猫の爪研ぎは頻繁に行われる。我が家では部屋と部屋との境に爪研ぎ板が置かれている。そこを通り掛かるたびに爪を研ぐのは彼にとっては自然の成り行きのようだ。愛猫ハク氏、今夜も絶好調である。
桐の爪研ぎ板は両面にギザギザがついていて、洗濯板のような佇まい。木のクズを片付けながら時々裏返し、数カ月に一度買い換える。猫氏は細長い板の上に前傾姿勢で乗っかり、真剣な表情で一心不乱に爪を研ぐ。
ガリッガリッ!ガリッガリッ!
一定のリズムを保ちながら数十秒。一仕事終えれば、フンッと鼻息を吐き出しすっきりとした表情だ。時には片足を乗せ、男らしいスタイルを見せてくれる。それは大工がのこぎりで木を切る姿に似ている。
時にはその大きな音のせいで、観ていた映画を巻き戻さなくてはならなかったり、電話の向こうの友人にウルサイと小言を言われることもある。
以前住んでいた部屋の扉には爪研ぎ跡がくっきりついていた。退室の時不動産屋の移動に合わせてうまくスライドを繰り返してごまかしたつもりだったが、後日しっかり10万円の請求が来た。当時まだ猫氏は子供だったから仕方がない。今では爪研ぎ板以外のところでは研がなくなった。
1ヶ月に1度くらいの割合で猫氏の爪を切る。猫用の爪切りもあるが、我が家では飼い主と兼用で普通の爪切りを使っている。
肉球を押すと普段は「収納」されている爪が姿を表す。カギ状になった爪の先端数ミリを切る。猫氏は掴まれた手を早く引っ込めたくて仕方ないらしく、綱引き状態である。これは昔、誤って肉まで切った自分が生んだトラウマである。
だから爪切りはスピーディーになされなくてはならない。嫌がる猫氏を抱きかかえ、陽気に歌なんぞを歌いながらも、目だけ目茶苦茶必死な飼い主である。
猫の爪はある程度の時間が経つと表面がめくれて剥がれ落ちる。爪の抜け殻のような物体がたまに床に落ちているのだ。
日夜躍起になって爪研ぎに勤しんでいる猫氏を見ていると(外敵が襲ってくるわけでもなかろうに)と思ったりもする。
本日の1曲
Knock Me Out / Asparagus
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