10月 7th, 2008 by taso
客電が落ちれば、直前にしていた会話すら思い出せなくなってしまう。さいたまスーパーアリーナに集まった数万人が息をのんだ瞬間。今夜、最新アルバム『In Rainbows』のオープニングトラック「15 Steps」でライブがスタートした。
2曲目はRadioheadの名を世界に知らしめた『OK Computer』のオープニングトラック「Airbag」、自室で聴きまくっている『The Bends』から「Just」、『Hail To The Thief』からは「There There」、長年MTVのCMに使用され続けている『Amnesiac』の「Pyramid Song」。
ベストアルバムが発売されたこともあって、序盤は新旧アルバムから1曲ずつ楽曲が演奏されていく。
ここまでされると、してきたはずの心の準備も追い付かない。
彼らが二酸化炭素の排出削減を目論んでいることを加味すれば、最小限の装置で最大限の演出効果があるステージセットと言えるだろう。暗闇に輝く虹色のネオンはシンプルで洗練された印象さえ与える。
「コンバンワ。」「・・・Are you ready?」
最小限にとどめられたMCで、今夜はバンドメンバーの紹介すらされていない。その代わり、次々と演奏されていく楽曲の圧倒的な存在感に満たされていく。
「Paranoid Android」のイントロが流れると一際大きな歓声があがった。静かな歌い出しから一転、へヴィーなサウンドが病み付きになる。鍵盤を叩き「Fake Plastic Trees」を呟くように歌うトム・ヨークの歌声を聴けば、時間が過ぎるのが本当に惜しくなってしまう。
個人的には、今夜のハイライトは「Idioteque」だった。とかく内向的と称される『KID A』の代表曲がアクティブなアレンジでフロアを揺らす。ギターを置いたトムが踊り、アリーナに密集したオーディエンスの狂騒がさらに気分を高揚させる。ステージから遠く離れた5階のスタンドだって揺れていた。
一夜開けても、目を閉じればステージのネオンとギターサウンド、オーディエンスの熱っぽい歓声が蘇ってくる。
初めて観るRadioheadのライブ、その雰囲気はロックバンドのライブそのものだった。この楽曲たちと世界を旅することができるなんて、なんて稀有な人達なんだろう・・・!
(Photo/Rolling Stone.com –Radiohead photos)
SETLIST
01. 15 Step
02. Airbag
03. Just
04. There There
05. All I Need
06. Pyramid Song
07. Weird Fishes/Arpeggi
08. The Gloaming
09. Myxomatosis (Judge, Jury & Executioner)
10. Faust Arp
11. Knives Out
12. Nude
13. Optimistic
14. Jigsaw Falling Into Place
15. Idioteque
16. Fake Plastic Trees
17. Bodysnatchers
– Encore –
18. Like Spinning Plates
19. Videotape
20. Paranoid Android
21. Reckoner
22. Everything In Its Right Place
– Encore2 –
23. Go Slowly
24. My Iron Lung
25. How to Disappear Completely
本日の1曲
Idioteque (Live) / Radiohead
▼『I Might Be Wrong – Live Recordings』
『KID A』『Amnesiac』に収録されている楽曲のライブ音源を集めた
オフィシャル・ライヴ盤。「Idioteque」はとにかく必聴。
Amazon(リンク)のほか、iTunes Store(リンク)でも購入できます。
>>関連エントリー >>
2008/09/12 『買い物日誌005 二酸化炭素とロックンロール』
10月 4th, 2008 by taso
ホールでドリンクの長い列に並んでいると、スタッフがライブの開始を告げて回っていた。場内に顔を出すと、照明が客席を照らしている。あれ?ライブは始まったんじゃないの?
皆の視線が集中している後方を見ると、voリバースがマイクを持ち、客席の一人一人に名前を聞き『ハジメマシテ。』と丁寧に頭を下げている。この日、ファンと一緒に楽曲を演奏する企画(フーテナニー)が進行していたみたいで、この丁寧なご挨拶が30人分くらい繰り返された。
ほどなくしてセッションが始まり、早くもアンコールのような和やかで不思議な雰囲気が包む。ライブらしからぬ明るい照明と手拍子は、どこかの市民会館のリサイタルみたいだ。ロックのギグとは程遠い。
リバースは『ツヅケテ〜』と「Beverly Hills」を歌いながら言い去ったあと、ようやく反対側のステージに姿を現した。今夜のライブ、波乱の幕開けである。
ここ数年のWeezerは、日本のファンが聴きたい曲を惜しみなく演奏してくれている。この日のセットリストを振り返ると、1stアルバムと2ndアルバムからの楽曲が多いことがわかる。「Pink Triangle」や「Why Bother?」(どちらも2ndアルバム「Pinkerton」収録)、美しいコーラスワークの「Susanne」(シングル「Undone」のB面に収録)まで披露されるとはまったく驚いてしまった!
そしてなんと、半分くらいの曲で、リバース以外のメンバーが楽曲を歌うという異例の事態。いや、その慣れた様子や、オフィシャルサイトで公開されている動画からするに、最近はこのスタイルなのかもしれない。
ステージに座り込み、ボーカルを取らない、ドラムを叩き始める。ポニョの歌詞を口ずさみ、曲の真っ最中に『コノキョク、スキデース』と叫ぶ。終始奔放なパフォーマンスを続けたリバース。まったく、ファンの期待に応えているのか、裏切っているのか!?
この日数少ないちゃんとした演奏(?)「Say It Ain’t So」は、Weezerってこんなに格好良かったっけ?、と思ってしまう。(CD音源を真似て)メンバーへのインタビューから始まった「Undone (The Sweater Song)」など、最初の数音で身体が反応してしまう。
Weezerは自分にとって大切なバンドであるものの、一般的には意外にも知名度が低い。それでいてこれだけのオーディエンスが集まり、ブーイングが起こらないのもすごい。(「Perfect Situation」はリバースに歌って欲しかった気もするけれど)
今回の来日ツアーは本日が最終日となる。MCでそれを告げるとリバースはくるりと後ろを向き、バンドメンバーに「オツカレサマデシタ。」とおじぎをする。打ち上げでもない、ライブ真っ最中に行われたシメの挨拶には笑わずにいられない。(4代目bassの)スコットもバンドに馴染んでいるみたいだし、日本人のワイフのおかげでリバースのニホンゴMCも快調である。
昨年あたりはバンド解散説が飛び交ったこともあった。しかし今年リリースされたアルバムの出来は最高。今はYouTubeを使ってファンと曲を合作したり、フーテナニー企画でファンとセッションするなどの(以前のWeezerではちょっと考えられない)変化も起こっている。バンドは、周囲の心配をよそに楽しんでいるみたいだった。
自分のダメっぷりを歌うWeezerのスタイルは、かつて「泣き虫ロック」と呼ばれていた。
今夜は興奮と笑いが交互にやって来る不思議なライブ。リバースだっていつまでも泣き虫じゃいられない。日本に甘えた男(!)の最高のショウだった。
SETLIST
– Hootenanny –
01. Island in the sun
02. El Scorcho
03. Beverly Hills
04. Dreamin’
05. Dope Nose
06. Pork & Beans
07. Why Bother?
08. Hash Pipe
09. Buddy Holy
10. Creep (Radiohead cover)
11. My name is Jonas
12. Pink Triangle
13. Susanne
14. Undone (The Sweater Song)
15. Keep Fishin’
16. Perfect Situation
17. Say it ain’t so
18. Thought I Knew
19. Troublemaker
– Encore –
20. Automatic
21. Greatest Man That Ever Lived (Variations on a Shaker Hymn)
本日の1曲
Say It Ain’t So / Weezer
1月 14th, 2008 by taso
自宅を出ると、目の前の通りをPillowsのTシャツを来た人達が足早に歩いていた。今夜のライブ会場は自宅から近い。歩道を行けばライブハウス前に既に人だかりが出来ているのが見える。いよいよ高円寺HIGHにthe pillowsがやってきたのだ。
おそらく今夜のライブの整理番号は200数十番まで発行されている。建物の中に入ると正面にロッカースペースがあり、左手の階段から地下のフロアに降りるようになっていた。客が入り切っても少し余裕があったから、300人くらいは入れるかもしれない。
山中氏が「高円寺らしからぬゴージャスなライブハウス」と言ったように、フロアの天井は高く、まだ新築の臭いが残っていた。広くはないもののちゃんと2階席まである。
客電が落ち、聞き慣れたSEに切り替わると、いつものタイミングでメンバーが登場し、大きな歓声に迎えられた。山中氏はステージの端からオーディエンスに向かって腕を差し出した。前方6〜7列目ながらあわや指先の触れる近さに驚く。
「今日はファンクラブなんだよなぁ?なーんだ、俺たちのこと大好きなんじゃねぇか!」
「PillowsTシャツ着てるの100パーセントに近いんじゃないか・・・? あ!?お前違うな!」
間違いなく今までに見たthe pillowsのライブの中で最小のハコ。前回参戦したZEPP TOKYOのキャパシティが約5,000人だとすると、そのフロントエリアだけを四角く切り取ったようなコンパクトさ。真鍋氏の肩が山中氏のギターネックに触れそうだ。
MCで山中氏は「いつもより適当で手を抜いたセットリスト」と笑った。確かに各アルバムやシングルからピックアップされた今夜のセットリストはきっちり収録曲順になっているけれど、『Smile』と『Thank you, my twilight』両アルバムが選ばれていたのは嬉しかった。
それに今日は気心知れた仲間達を集めたようなもの。知らぬ曲はないほど皆音源は聴き込んでいるはずで、「手抜き」のセットリストもどこから何をぶつけても不安がないという確信の表れのような気がした。今日の会場は終始、身内同士のような安心感に包まれていたと思う。
大晦日にthe pillows恒例のカウントダウンライブを行ったものの、それ以降は初めてのライブになる。新年らしく「今年の抱負」を述べる場面もあった。それぞれの宣言がまた笑いを誘う。
「そろそろpillowsに入りたい。」(鈴木:サポートメンバー)
「シンイチロウ君の美味しいパスタをまた食べたい。」(真鍋)
「ステージに布団を敷いて寝たい。」(佐藤)
「チューニングが早くできるようになりたい。」(山中)
ギターの真鍋氏は、「高円寺は思い出深い場所です。」と始める。当時高円寺に住んでいたドラムの佐藤氏の部屋で、the pillowsに加入することを決めたという。あらためてそのエピソードを聞くと、やっぱり嬉しくなる。
アンコールの “No Substance” のイントロで盛り上がりは最高潮に達し、後方から続々と人がなだれ込んでくる。アルバム未収録曲で最高の盛り上がりを見せるというのも今夜ならではの光景かもしれない。
真冬にも関わらずTシャツ姿で新築のビルに群がる若者達を見て、通行人のおじさんも「何があるの?」と声を掛けてくる。週末は若者が行き交うこのあたりでも、こんな人だかりは滅多に見かけない。
今夜は大好きなバンドが近所にやってきた、ちょっと不思議で楽しい夜だった。
SETLIST
01.Good Morning Good News
02.Waiting At The Busstop
03.この世の果てまで
04.Monster C.C
05.Rain Brain
06.ビスケットハンマー
07.バビロン 天使の詩
08.Ladybird girl
09.And Hello!
10.Tokyo Bumbi
11.Go! Go! Jupiter
12.Across The Metropolis
13.MY FOOT
14.ROCK’N’ROLL SINNERS
15.空中レジスター
16.Wake up! dodo
17.YOUNGSTER (Kent Arrow)
18.プロポーズ
19.スケアクロウ
-Encore1-
20.Sleepy Head
-Encore2-
21.No Substance
本日の1曲
Tokyo Bambi / The Pillows
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2007/12/16 『The Pillows “TOUR LOSTMAN GO TO YESTERDAY” @Zepp Tokyo』
2007/10/09 『The Pillows “Wake up! Tour” @Zepp Tokyo』
2007/08/15 『The Pillows 〜SUMMER SONIC 07〜 @Island Stage』
2007/07/23 『The Pillows “Wake up! Tour” @渋谷 O-EAST』
2007/06/13 『The Pillows “Wake up! Tour” @渋谷 CLUB QUATTRO』
2006/12/16 『The Pillows TOUR “LOSTMAN GO TO CITY” @SHIBUYA-AX』
2006/09/07 『The Pillows 〜音楽と人 presents Music & People EXTRA 2!〜 @STUDIO COAST』
2006/02/13 『The Pillows』
12月 16th, 2007 by taso
『今日は随分古い曲もやるけど、ついてきてくれ』
vo.山中さわおは確認するかのように言い、それに応える大きな歓声は、明らかに普段のライブとは違う期待が込められていた。
ライブ会場にやってくる人々はいつも、「ライブであまり演奏されない古い曲」を期待しているものなのだ。
The Pillowsは先月、13年間在籍したキングレコード時代にリリースした全シングルを集めた「LOSTMAN GO TO YESTERDAY」を発売した。そのリリースを記念した東名阪ツアーともなれば、新旧織り交ぜたセットリストは必至だろう。
開始早々、“Rush”、“NO SELF CONTROL”、“Wonderful Sight” と、The Pillowsらしいオルタナナンバーが続き、ステージ左側の幾分控えめな位置に場所を取ったことを少し後悔する。すなわち、痒いところに手が届くような垂涎の選曲である。
”ノンフィクション” の曲間のブレイクから突如MCに突入。山中氏が最近買った『2000円から3000円というお値段も手頃な』腕時計が壊れ、『ちょうど9 時16分で』止まったらしい。The Pillowsの結成記念日(9月16日)はファンにはお馴染みだけれど、こうして皆が一斉に驚く姿はなんだかほほえましい。
すると『これはノンフィクションです。』と言い放ち、間髪入れずに演奏を再開する。そんな気まぐれな演出を楽しんでいるオーディエンスを見ると、ライブって面白いなとあらためて思う。
今年結成18年を迎えたThe Pillows、名曲も多いが「持ち歌」も多い。今夜の会場の反応を確かめるように差し出される「定番以外の」楽曲の数々。イントロが始まれば所々で感嘆の声が上がった。
そんな雰囲気の中、イントロのわずか数音目で、思わず友人氏と顔を見合わせたのは “白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター” 。黒いギターを持った赤い髪の少年は、そのまま若き日の山中自身の姿。上京する前、まだ北海道で暮らしていた頃を回想して書かれた曲だ。
呟くような歌い方とセンチメンタルなメロディーが、ひねくれた若者の鬱屈とした姿を想像させる。The Pillowsの楽曲の中でも、もっとも好きな曲のひとつだけれど、ライブではあまり演奏されないであろう楽曲でもある。CDでは幾度となく聴いた曲も、実際に体感するとまた一層胸が詰まる。一音も聴き逃したくない気になってステージを見つめた。
ところで、最近パーマをかけたらしい山中氏は、ヘアスタイルの加減にも注力しているみたいだった。セットした髪をいじりながら『・・・膨らんでるのか?』という(なんとも返しようのない)問い掛けをマイクで轟かせながら、いつもの調子で水を飲みギターをチューニングしている。
そして懐かしい曲を演奏し終えるたびに『イヤー、良い曲しか書かないなぁ』と、冗談めかして笑いを誘っていた。かと思えば、ふと真剣な表情で『こんなに沢山の人の前でやれて嬉しいよ。(昔の)曲のためにもなった、ありがとう。』と言ってみたりもする。
自分に強い自信を持てる人を羨ましく思う。しかし彼の場合、現在の揺るがない自信を手に入れるまでにどれだけの迷いや困難を経験してきたのだろう。
自分の価値なんて誰も判ってくれないと思っていた時代。なんでもひとりで抱え込んでいた青年は、長い時間をかけてメンバーと信頼関係を築き、そんな心情が反映された名曲が生まれていった。
今夜の “ONE LIFE” “Swanky Street” の流れは、The Pillowsというバンドのヒストリーをそのまま語っているかのようだった。それは強い意志を持って自分たちの音に辿り着いたバンドの音楽であり、メンバーがいる尊さをちゃんと自覚している音楽でもある。誰もが親密な仲間を持てるわけではないことも、彼らは知っているはずだ。
続く『ストレンジカメレオン』。定番曲でありながら色褪せもせず、聴くたびに山中さわおのシャウトが心を震わす。
本編終了後にたまらず目の前のバーをくぐりフロントエリアに潜り込む。アンコールでは、先週39歳の誕生日を迎えた山中氏が、でかでかと「39」とプリントされたTシャツを着て登場した。
『なんか楽しくなってきちゃった!』と缶ビールを勢いよく飲み、『曲数増やしてもいいかな!?』とステージから叫ぶ。
大喜びするオーディエンスに向かって『照明さんに言ったんだよ!』と笑い、さらに皆が沸き返った。まるで会場中がアフターパーティーのような盛り上がりだった。
SETLIST
01.TRIP DANCER
02.RUSH
03.NO SELF CONTROL
04.Wonderful Sight
05.Sleepy Head
06.ノンフィクション
07.HEART IS THERE
08.Nightmare
09.白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター
10.開かない扉の前で
11.Ninny
12.DAYDREAM WONDER
13.ガールフレンド
14.Tiny Boat
15.Tokyo Bambi
16.Ladybird girl
17.彼女は今日、
18.ONE LIFE
19.Swanky Street
20.ストレンジカメレオン
21.その未来は今
-Encore-
22.チェリー
23.ハイブリッドレインボウ
-Encore2-
24.サード・アイ
25.Advice
本日の1曲
白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター / The Pillows
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2007/10/09 『The Pillows “Wake up! Tour” @Zepp Tokyo』
2007/08/15 『The Pillows 〜SUMMER SONIC 07〜 @Island Stage』
2007/07/23 『The Pillows “Wake up! Tour” @渋谷 O-EAST』
2007/06/13 『The Pillows “Wake up! Tour” @渋谷 CLUB QUATTRO』
2006/12/16 『The Pillows TOUR “LOSTMAN GO TO CITY” @SHIBUYA-AX』
2006/09/07 『The Pillows 〜音楽と人 presents Music & People EXTRA 2!〜 @STUDIO COAST』
2006/02/13 『The Pillows』
11月 4th, 2007 by taso
仕事中はほとんど片耳にイヤホンを突っ込んでインターネットラジオを聴いている。主にカリフォルニアのラジオステーションから届くオルタナティブロックを。
知っている曲が流れてくれば人知れず盛り上がるし、気になった曲があればポストイットにメモしておいて、あとでAmazonかiTunes Music Storeで購入する。
自宅同様、職場のパソコンからも常にアカウントにオートログインしている状態だし、会社で使用しているウェブ・ブラウザにはご丁寧にAmazonの検索ボックスまでついている。思い立ったらその場で注文すればいい。
スムーズな配達システムのおかげで、商品の多くは翌日に自宅のポストに配達される。要するに「一晩我慢すれば」手元にCDが届く。配達を待てなければダウンロード購入だってできる。
疲れた身体を引きずってわざわざCDを買いに行くには、いろんなスタンバイが整い過ぎている。Amazonの顧客たちは待ち時間すらなしに『レジに進む』ことができるのだから。
そんなわけで、最近レコードショップに行かなくなった。世界中のラジオステーションから日夜届けられる音楽と、Amazonという巨大な倉庫。音楽は多方向からやってきて、自分の音楽ライフが変化してきたのを感じる。
ところで、我々はそれによってなにかを失っているのだろうか?
考えてみれば、(ちょっと面白そうだから聴いてみるか)とマキシ・シングルを買わなくなった。我が家のラックに並ぶ「輸入盤のマキシ・シングル」というマイノリティな品物は、ほとんどが暇を持て余していた学生時代に買ったものだ。レコードショップの棚の前でUK輸入盤とUS輸入盤をひっくり返して、収録曲を見比べることも随分していないような気がする。
先日、アメリカのバンドが、自分の知らない間にニューアルバムをリリースしていたことを知った。リリース日のアナウンスを聞き逃していた自分に驚き、仕事帰りに渋谷QFRONTのTSUTAYAに駆け込んだ。0時も近いというのにビルには沢山の人達がいて、スターバックスには長い列が出来ている。
残念なことに、この店舗は目当てのCDを扱っていなかったけれど、他にもいくつか気になるバンドの新譜を発見した。今夜ここに足を運ばなければ、今日知ることのできなかった情報である。試聴機の中身は次から次へと入れ代わるし、ある程度メジャーなバンドでない限りリリース情報は耳に入りにくい。
こういう「周りを見渡す行為」は、レコードショップならではの特徴といえるけれど、それを意識したシステムがAmazonやiTunes Music Storeにもある。『この商品を買った人はこんな商品も見ています』というメッセージと共に類似商品を紹介してくれるサービスだ。
例えて言うならば、腰の低い店員氏の「コレも・・・どうスかね?」的なアプローチで、こちらは『すでに持っています』ボタンや、『興味がありません』ボタンでリアクションをとればいい。実際にそれで新しい出会いが叶うこともある。
昨夜、仕事帰りにタワーレコード渋谷店へ行った。自分のためだけに用意された検索結果もありがたいけれど、普段なら排斥するであろう雑多な情報に溢れた売場をもっと歓迎すべきなのだ。(店員氏による思い入れたっぷりのPOPもこちらを楽しませてくれた!)
音楽との接点が増えたのは喜ばしい。今や、購入の形態もひとつではない。なんだか多方向から音楽がやってくる時代になった。そんなことを実感した一週間だった気がする。
本日の1曲
Rape Me / Nirvana